マイムとコーヒー

マイムとコーヒー


〜もう4年ぐらい前になるでしょうか。私が初めてのソロ公演を終えた頃、コーヒーショップを開くという友達から、「お店のブログに載せるからコーヒーにちなんだエッセイでも書いてよ」と頼まれました。その時に書いたのがこのエッセイです。旧ホームページにも掲載しましたが、再度アップしたいと思います〜

マイムは想像力を必要とする。ないものをそこに作ってお客さんに見せ、お客さんもそれを想像して見る。その繰り返しで、ストーリーや自分の思いを伝えていくのである。演者の見ている物がお客さんにも見えた時、それは確かにそこに存在するのである。

おもしろい。が、難しい。奥が深い。しかし、そういう難しさもさることながら、ソロ公演を成功させるにはもう1つ、全く別のものとも闘わなくてはならないのである。それは、「スタミナ切れ」である。

一時間もの間、自分一人で出すっぱりの動きっぱなし。狭い小屋の天井からは、たくさんの照明が吊り下げられている。暑い。汗がしたたり落ちる。「こんなはずじゃなかったのに」と思う。小さい頃からスポーツでならした自分が、スタミナ切れをおこす。年くったかな、と初めて思った瞬間であった。

今思うと、「年くっちゃったか?」と思う前兆は他にもあった。
年をとると味覚が変わるなんて言うが、私も「うまい」と思う食べ物が、最近変わってきていたのである。
納豆や豆腐、味噌汁がうまいと思う。昔は食べたいとは思わなかった、漬物がうまい。
油っこいものには興味がなくなり、ハンバーガーやポテトチップスなどは食べたいと思わなくなってきた。

飲み物についてもそうである。炭酸飲料を飲みたいとは思わなくなった。逆に、普段飲まなかったものを飲みたいと思うようになってきた。コーヒーである。私はコーヒーを全く飲まない。ところが最近、自販機を見ると「コーヒーでも買ってみようかな・・」という気になりだしてきた。いや、これに関しては、気になるだけでまだ買ったことはないのだが、ふとそういう気持ちがよぎるようになってきたのである。

そう思って気がついた。私は何本かマイムの作品を持っているが、まだ一度もコーヒーを飲むシーンを演じたことがない。コーヒーを飲む人、飲む状況、その味、香りを、舞台で表現したことがないのである。

それを演じられれば自分もようやく大人になれるのかもしれない、そんな事を思いながら、自販機の缶コーヒーをにらんでみる。お金を入れる。しかし、やっぱり今日もその横にあるミルクたっぷり紅茶のボタンを押してしまうのである。

あと一歩、もう少しで大人の仲間入りである。体のスタミナ切れとともに・・・。

〜その後、彼は予定通りコーヒーショップを開きました。店を切り盛りするのも大変だと思いますが、頑張ってくださいよ!〜




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