知らない人からおめでとう
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知らない人からおめでとう 去年(2011年)の年末、ひょんなことから映像作品を撮ることになった。 映像作品といってもフィクションではなく、言うなればゲリラ撮影だ。 滋賀県に住むある男性のために企画を用意し、彼と初めて会うその日に撮影することになった。
・・・ある男性というのは、ヨメさんの妹と結婚することになった新郎のことである。
事の発端はこうだ。 この新郎君、京都で行う自身の結婚披露パーティーで上映できるような映像を撮りたいと考えていた。新婦に内緒で準備する「サプライズ企画」である。新婦を驚かせる映像だ。 サプライズといえば、やはりご家族や友達からの涙のメッセージである。新郎君もそれを撮ろうと考えていた。 そこでこの新郎君、新婦の両親に「撮らせてください!」とお願いしたところ、あえなく断られてしまった。別にビデオを通して言うことなどない、言いたいことがあれば本人に直接言う、などと言われたとのこと。 冷たいようだがごもっともです。
そこで東京にいるお姉さん夫妻のメッセージだけでも、と連絡してきたのである。東京に行きますから、と。 いやいや、そんなたかだか10秒か20秒のメッセージ撮りに滋賀から東京まで来なくても。しかも大して感動もない、しょーもないメッセージ。誰もサプライズしないという空前のサプライズ企画になってしまう…。
でも無碍に断ることもできない。断ったら新郎君どうするの? 別の企画考えるの? 仕事やら結婚式の準備で寝る暇もないぐらい忙しいのに?
そうですか、分かりました。ええ、分かりましたとも。 それならこのわたくしめが企画を考えましょう! ええ、考えますとも。新婦がビックリし、かつ観ている人全員が楽しめるような、そんな夢のような企画を! そうさ、きっと思いつくさ。思いつくはず。考える時間さえあれば。 えー・・・ あーでもないこーでもない・・・
3日間ウンウンうなり続けながら考えた。 すると、ほんとに思いついた。
その名も、「知らない人からおめでとう!」という企画である。 新郎君がわざわざ東京に出てくるということなので、それならいっそのこと不慣れな東京の街に繰り出してもらい、いろんな人に自ら声をかけてもらって、新婦への「結婚おめでとう」メッセージをもらおうじゃないかと。 新郎も新婦のことも知らない人、まったくの赤の他人からおめでとうと言ってもらおうじゃないかと。そのメッセージをカメラに収め、あとで編集でつなげばおもしろくなるんじゃないか??
編集もわたしがやりまっせ。ええ、なんとなくイメージはありますよ。 目標人数はどうしよう? 不可能なぐらいのほうがいい。 じゃあ新婦の誕生日が12月3日だから、それにちなんで「123人」でどや?! 「123人の知らない人からおめでとうメッセージをもらう!」 これでどや!?
というわけで、行き当たりばったり、出たとこ勝負の企画を思いついたのである。
新郎君に電話で話してみた。すると、2つ返事でOKしてくれたのである。ぜひやらせてください!と。しかも自ら「タスキをかけます」などとアイデアまで出してくる。よし、それなら徹底的にピエロを演じてもらおう!
新婦に内緒で着々と準備を進め、いざ撮影日の12月4日、奇しくも新婦の誕生日翌日に、東京の品川で撮影を開始することになったのである。
まずは、品川に到着したら電話をくれるように新郎君に伝えておき、かかってきた電話で話しながら待ち合わせ場所に誘導してあげる。これは、もちろん迷わないようにという親切心もあるが、実はこの電話をきっかけとして、新郎に内緒でカメラを回し始めたのである。つまり、新郎の自然な登場シーンを撮影するために、彼に内緒で、来る直前から撮影を開始しておこうという作戦である。
品川駅から出てくる新郎。すでにカメラは回っている。それを見て、「あれ?」という表情の新郎、笑顔がこぼれる。 見事に自然なシーンが撮影できた!
新郎君と会うのはこの時が初めてだ。顔を直接見てではなく、カメラのレンズを通しての「初めまして」のあいさつとなった。
そして、まずはこの企画を端的に説明する映像を撮ろうと、いくつか用意しておいたセリフを新郎君に渡し、カメラ目線で語ってもらって撮影。さらに、品川を颯爽と歩く新郎君や駅で迷っている新郎君など、必要か必要じゃないかわからないカットも確保。
休日のため品川には人が少なく、どうも声をかけられるような雰囲気ではないので、わたくしめのホームグランドといってもいい井の頭公園に移動することにした。
さぁ、そして吉祥寺駅に到着。そこから歩いてすぐの井の頭公園に向かう。 駅を出たところで、緊張の面持ちの新郎君に「結婚します! 祝ってください!」と書かれたタスキをスーツの上からかけてもらう。 人通りの多い道に出て彼のワンショットを撮影していると、早くも周りから「おめでとう!」の声があちこちから飛んできた! おぉ!これはいける! よっしゃ、今、声かけてくれた人を追いかけてメッセージもらおう!!
追いかける新郎君。 カメラを持って走ってついていく。 すると新郎君、人見知りをしないその性格のなせるわざか、まったく物怖じせずに声をかけてしまう。企画を考えた私自身がビックリするほどのスムーズさだ。 声をかけられたほうも最初は「えー!」と驚いたりしているが、やはり「結婚」というおめでたいイベントの力なのか、ほとんどの人が撮影をOKしてくれる。
井の頭公園に行くまでに数人、そして公園内でもひたすらいろんな人からOKをもらい続け、1時間もたたないうちに33人もの方々からメッセージをもらうことができた。
あまりにも順調な滑り出し。東京は冷たい人が多いようなイメージがあるが、いやいやなかなか皆さんあたたかい。
カラオケボックスに入ってお昼を食べながら、そこでカメラをテレビについないで、撮影した映像を確認。これはおもしろくなりそうだ。
そこからは代々木に移動。女子高生が群がっている原宿や、ちょっとリッチな雰囲気の表参道でも声をかけた。 そして陽が暮れる頃に渋谷に移動。気が付くと、ちょうど90人の方々からメッセージをもらっていた。
すごすぎる。何日も悪戦苦闘することになる、そう思っていた企画がなんと1日で4分の3までクリアしてしまった。
その後、渋谷の居酒屋で祝杯をあげ、残りの撮影は新郎君とその後輩にお願いすることにして、大阪や京都のほうで続けてもらうことにした。
後日、見事、大阪や京都での撮影で目標の123人を達成したとの連絡が新郎君から来たのだが、新郎君によると、東京よりも撮影は困難を極めたらしい。 東京ではものすごい確率でOKしてもらえたものの、大阪や京都では断られ続けたという。 大阪のほうがノリのいい人が多いはずなのだが、これまた予想とは違う。 東京のほうがカメラに「撮られ慣れ」しているようだ。
そこからは、撮影した映像を見ながらの編集作業。 みなさんからいただいたメッセージをつないでいくと、最初に入れようと思っていた「企画を説明する新郎君のセリフ映像」は、まったく必要ないことが判明した。 どうもそこだけドキュメントっぽくないのである。他はゲリラ撮影なのに、ここだけはカチっと決まりすぎている。これは企画者である私の想像力不足だったのかもしれない。ある意味、このシーンの撮影が一番大変だったが、あえてバッサリカットした。
というわけで、この企画の上映に割り当てられた10分ちょうどになるように編集を終え、完成させた。
結局、私はこの結婚披露パーティーには参加しなかったため、上映の様子を生で楽しむことはできなかったが、後日、上映の模様を撮影した映像を見せてもらった。なかなか盛り上がったようであった。 できれば新婦を驚かすだけでなく、泣かせてみたい! との思いもあったのだが、内容が内容だけに、見終わった後の新婦は「笑い泣き」していた。 まぁ成功と言えば成功か??
そして、この企画はそれだけじゃなかった。実は撮影時に、コメントをくださった方々にはあるURLを書いたカードを渡しておいた。そのURLのサイトに、いただいたメッセージ映像をすべてあげておいたのだ。各自が自分のメッセージ映像を確認できるだけでなく、他のすべての人のメッセージを見ることもできる。そしてコメントも投稿できるようになっている。さらに、最終的にはなんと、メッセージをくれた方々に対する新婦からのお礼メッセージ映像まで載せたのである!
とにかく、予想以上に楽しい企画となってしまった。
・・・そんな新郎新婦にも、今やすでに第一子が誕生し、撮影した日のことはすでに遠い過去のように感じられるようになってしまった。 二人の幸せな結婚生活のスタートを、ちょっと変わった形で祝うことができてよかったなーと、そう思っている次第である(新郎君の犠牲?は伴ったが・・・。)
みなさんもよかったらこの企画「知らない人からおめでとう!」、ぜひやってみてはいかがでしょうか? すべての人が楽しくなる企画です! 特許も著作権もありません、どうぞご自由にお試しください!
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