健康について
(01年4月初出、21年9月リバイバル掲載)


今年の2月は大変だった。
東京で芝居に出て、その一週間後に大阪でコントライブ。
まさに不眠不休の一ヶ月だった。

その疲れがドッと出たのか、コントライブを終えて東京に戻った次の日、体調を壊してしまった。

下痢である。腹痛である。

おそらくあの生タマゴが悪かったに違いない。コントライブで飲み続けた、あの生タマゴ群。

二日で14個も。

あれのせいでひどい腹痛を抱え、夜中にトイレでうずくまっていると、
ついでに頭痛と吐き気まで催してきた。
そりゃもう大変だった。

そんな時に思うのが(と言うかそういう時にしか思わないのが)、やはり健康のありがたさである。

健康であることは素晴らしい。

たとえ勉強ができなくても、少々運動神経が鈍くても、好きなコにふられても、コントですべっても、昔の彼女に「さんまの恋のから騒ぎ」に出られても、その彼女に新宿でバッタリ会ったらダンナを連れていても、健康であればそれ以上望むものはないとさえ思えてしまう。

しかし、とトイレでうずくまっている時に思った。
そういえば自分は昔、全くの健康体で手術を受けたことがあったなぁ、と。

そう、あれは確か大学4回生のとき・・・・・

 
その時、自分の右腕の後ろ側には、なぜかポッコリとしたふくらみができていた。
原因不明。外側にできたおできでもなく、中側からふくらんできているのである。
触ると固い。ウェイトトレーニングのせいでなんかできたのかな? と思いつつ、しばらく放置していた。

ところが何ヶ月たっても治る気配がない。
だからといって痛くも痒くもない。何の症状もない。
ただ夏が近くなり半袖を着ると目立つので、ある土曜の朝、病院に行ってみることにした。

するとちょっぴり丸体型に眼鏡、いかにもオタクっぽい風貌の医者が
満面の笑顔でこう言った。
「切りましょう。私が。今日の午後。」

結局そのふくらみがなんなのか判然としないまま、一旦ウチへ帰り、
昼飯を食って、また病院へと向かった。

そこで看護婦さんに血圧を測られながら聞かれた。
「お昼ご飯はぬいてこられましたよねぇ?」

「え?」

あの丸体型の医者は何にも言わなかったぞおい。
たらふく食っちまったぞおい。どうなるんだおい。

「そうですかぁ・・・(間)・・・まぁ、・・大丈夫・・・かな・・」

おい、なんだその思わせぶりな間は。なんだ、危ないのか?
飯たらふく食った後の手術はまずいのか?

質問する間もなく、「これに着替えて下さい」と服を渡された。
あれなんていうの、入院患者さんが着せられてる浴衣みたいなやつ、それと、あれなんていうの、髪の毛覆うビニール袋みたいなやつ。パーマ屋でおばちゃんがかぶせられてるみたいなやつ。それつけてスタンバった。

すると看護婦さんに、「じゃあ上来て下さい」などと言われ、
その格好でスリッパをはき、持ってきた自分のカバンを持って、
階段で上がったのである。

なんて健康。
息も乱れなかった。

その階段を上がると、そこには手術室があった。
あの「手術中」なんていうランプがある。
よくドラマで、あれなんていうの、タイヤ付きのタンカ、ストレッチャー?あれでガーって運ばれながら、大きなドアが左右にガーって開いて入っていくところ。

そこをなんと自分は、ボタン押して開けて、カバン持って歩いて入ってしまった。
なんのドラマもない。

そして中に入ると、ガランとした部屋のまん中に手術台があった。
カバンをどこに置いたらいいか散々迷ったあげく、とにかくその台に寝そべってみた。
右腕をちょっぴり上にして。
眠たかったので思わず寝そうになった。でもガマンした。

すると看護婦さんが入ってきて何やら動かしていった。
数秒すると、なぜか久保田利伸の曲が流れ始めた。
曲名は分からないが、少しけだるい感じ。
眠たかったので思わず寝そうになった。でもガマンした。

そうこうするうち、あの丸医者が入ってきて、心音を取る物体をはりつけられ、顔と右腕の間に小さなカーテンみたいなのをつけられ(これで腕の切られてる部分が見えない)、腕に麻酔を打たれ、手術が開始された。

医者が何やら腕をいじってるらしいのは分かるが、麻酔のおかげで全く痛くない。
小さなカーテンのおかげで切ってるところも見えないし、耳には心地良い久保田利伸と自分の「ピッ、ピッ、ピッ」という心音だけ。

案外快適やなぁ、などと思いチラッと医者を見た瞬間、
しかし、どえらいもんが目に入ってしまった。

なんと、医者がかけていた眼鏡に、血まみれになって切られている自分の腕が写っていたのである。

あー!と思い、ドギマギしていると、心音のスピードが「ピッ!ピッ!ピッ!」と上がる。
急に上がったもんだから医者もビックリして、「どうされましたぁ?」なんて聞いてくる。

「い、いえ、どうもされてません。」と、マルシアばりのエセ日本語で答えてはみたものの、なんともないと思えば思うほど、「いいえ!いいえ!」と心の中で叫べば叫ぶほど、心拍数が上がる。

まるでウソ発見器である。

そうこうするうち手術が終わり、取り出された物体を見せられた。
見たくもないが、丸医者が「ほれ。これ。取れました。これ。」と言って転がしてみせるので見てしまうしかなかった。結局なんなのか分からなかった。

今でも右腕にはその時の傷が、微妙に残っている。

 
ふとトイレで我に返った。そのまま寝てしまいそうだった。
出ようとして背筋を伸ばすとなぜか腹が痛い。
腰をかがめたまま寝床へついた。

願わくは健康、健康、死ぬまで健康・・・。
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