イラン映画について
(01年7月初出、21年12月リバイバル掲載)


出ました! 「パンと植木鉢」のビデオ!

・・・何?って、去年映画館で見て以来、ビデオ化を待ち望んでたイラン映画ですよ!早速レンタルしてダビングしてやったぞ!(買うと高いもんね!)

いや〜、いい!何がいいって、どこまでが事前に考えられた脚本通りでどこからがその場の流れで撮影したのか分からないところだ。おそらく全て計算なんだろうが、そうだとすると凄すぎる。

特に、やっぱりラストシーン。悲しくもカッコ良くもないのに、なぜか衝撃を受けて泣いてしまった。こんな映画は初めてだった。監督はモフセン・マフマルバフ。

一度見てもらえれば、ここで言わんとすることが分かって頂けるのではないだろうか。(あえてH村Jのように全て言ってしまうのはやめておく。てな感じで)

さて、「イラン映画」と言われても、「?」となる人が多いかもしれないが、最近最大のヒットとなったイラン映画なら知ってる人も多いんじゃないだろうか。マジッド・マジディ監督の「運動靴と赤い金魚」である。あの「ライフ・イズ・ビューティフル」とアカデミー外国語映画賞を争った作品だ。

イラン映画にはよくあるが、子供が主人公の映画である。心優しいお兄ちゃんとかわいい妹が、1つのスニーカーを交代で履いている。貧しくて親に靴を買ってもらえない。いや、正確には買ってもらえるとは思ってないので言えないのだが。

全編にユーモアと哀しさが溢れる、必見の名作である。特に最後のマラソンシーンは、ドキドキと哀しさとおかしさでいっぱいだ。

他にもこの監督の作品(「太陽は、ぼくの瞳」「バダック」)はビデオ化されているのでいつでも見ることができる。

しかし、やはりイラン映画と聞いて最初に語られるのはアッバス・キアロスタミ監督だろう。「友だちのうちはどこ?」「胡桃の味」「風が吹くまま」などの代表作で世界の映画賞を総ナメにしている監督である。

最近この監督の「クローズ・アップ」という作品をビデオで見た。
これがまたすごい。何がすごいって、実際にあった事件の裁判を撮影している。裁判所に監督やカメラがのりこんでいるのである。しかもこの監督、裁判の途中で頻繁に被告人に質問するのである。被告人はしっかりとその質問にカメラ目線で答え、周りの原告や裁判長もそれをちゃんと聞いている。

しかも被告人は映画好きで(自分を「モフセン・マフマルバフ監督だと偽った罪で裁かれている)、このキアロスタミ監督の作品を引き合いに出して、自分のことを例えたりしている。出来過ぎのようだが、どうもこのシーンは本物のようだ。

しかし、ここからがもっとすごい。

なんと監督は、この本物の原告と被告を使ってその後、事件を再現させ、それを撮影して映画にしていくのである。お互い、バスの中で出会ったシーンからやっている。こんな会話をした、などと思い出しながらやったのだろうか。原告と被告が、である。シュールな展開である。

結局この映画は、裁判のシーンやその後、釈放されたところなどドキュメンタリーの部分と、実際に彼らを使って再現させた、いわゆる再現映像とを織り交ぜ結末へと向かう。事件自体はほんとに小さなものだが、なぜか最後までドキドキして見てしまった。すごい映画があるもんだ。

以上を見ても分かるように、わりと半ドキュメンタリー的な映画がイランには多いようだ。アメリカの短編映画でもこういった手法が最近増えているらしく、「モキュメンタリー」などと呼ばれているらしい。(「モック」という、「だます」「フィクション」の意味の語と、「ドキュメンタリー」を合わせた語である。)

これからも世界中で、この傾向が増えていくんじゃないだろうか?

出演者も素人をよく使っている。かなりのフットワークの軽さを感じる。要注目である。

何か今回はイラン映画の回し者のようなコラムになってしまったが、これからもおそらく、もっともっと素晴らしいイラン映画が世界の映画祭を賑わしていくだろう。

あなたも今のうちに見ておいてはいかがだろうか?
なんちって。

しかし、最後に重要なことを付け加えておこう。
大半のイラン映画は、眠い。「眠いからこそイラン映画だ」という言葉もある。

そこで、最後にうへだゆふじお薦めのイラン映画をもう1度メモっておきます。ここにあるのは眠くないはず。

ぢゃ!


「パンと植木鉢」「サイクリスト」 (モフセン・マフマルバフ監督)

「運動靴と赤い金魚」       (マジッド・マジディ監督)

「クローズ・アップ」「トラベラー」(アッバス・キアロスタミ監督)

などなど。
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