学生ボディビル大会について
(01年10月初出、22年3月リバイバル掲載)


今月は極私的偉人伝第6回でいつか書いてみたいと言っていた、学生ボディビル大会について書こうと思う。

「学生ボディビル大会」・・・、なんともマニアックな世界のように思える。それを知ってる人など、100人いても1人もいないかもしれない。しかしそれは存在する。それに青春の何年かを本気で捧げた人間もいるのだ。

「ボディビル」というと、どんなイメージがあるのだろうか?
テカテカの体に笑顔でポーズをとっている男を思い浮かべるかもしれない。それも間違いではないかもしれないが、学生大会に限っては、体にオイルを塗るのは禁止である。そんなものを使って勝負するなということか。

そして笑顔というよりも、歯をくいしばり眉間にしわを寄せ、余裕というよりむしろ必死の形相でポーズをとるイメージだ。気合一発である。

大会に費やすまでの労苦は極私的偉人伝第6回に譲るとして、今回は早速、その大会について書いていこう。

大会当日。午前中は予選である。
まずは1人ずつエントリーナンバーと所属大学を言われ、ステージ上に出てくる。その時、何かポーズをとって審判団にアピールしたりする。

審判団はステージ下、前方の席で見ている。審判団を構成するのは日本ボディビル連盟員や、前年度の関西・全日本学生大会において上位に入ったものである。

「ボディビル大会」とは、単純に言うと筋肉美を競うものだ。贅肉があってはならない。この最初の登場の段階である程度、予選を通りそうな者、そうでない者、当落線上の者など予想がつく。

しかし、もちろんこの予想を覆す方法もある。それは見せ方、つまりポージングのうまさである。そういったものも審査に影響する。

さて、全員がステージに並んだところで選手宣誓、開会宣言などがあり、一旦全員ひっこむ。そして番号の若い順から5人ずつぐらいでステージへ出て、比較審査が行われる。全員に同じポーズをとらせて比較するのである(7つの規定ポーズというのがある)。

そして実はこの間、出番を待つ選手は裏で大変なことになっているのだ。
舞台裏に用意された狭いトレーニングエリアで、ひたすら筋トレしているのである。

なぜか? 

それは筋肉を少しでも膨らませ、血管を浮きたたせ、見栄えをどえらいもんにするためである。これをパンプアップという。

とにかく体が触れ合わんばかりに狭いところでダンベルを持ったり、腕立て伏せをしたり、中には2人で引っ張り合いのようなことまでしている。

これで筋肉をパンパンにして、気合を入れてステージ上に出るのである。試合直前まで、なんとも涙ぐましい努力である。

一通り済むと、今度は審判がさらに比較したい選手の番号を呼ぶ。2〜4、5人呼ばれて、これまたポーズをとらされ比較される。この呼ばれ具合で自分がどの辺にいそうなのかが分かったりする。全く一度も呼ばれなければ文句なしで予選突破か、間違いなく予選落ちである。

これで予選は終わり。審判一人一人がいいと思う選手に丸をつけ、丸の多い方から決勝進出となる。落ちると一瞬にしてそれまでのトレーニング苦と減量苦が無に帰してしまうのだ。

参加人数にもよるが、通常15人が決勝に進める。その番号は昼に放送で発表される。呼ばれれば、おめでとう!決勝進出!呼ばれなければ、ある意味おめでとう!その瞬間から飯がたらふく食える!

というわけで、いよいよ決勝である。

決勝。勝ち進んだ15人がステージ上に。最初は部分賞の審査というのが行われる。

「部分賞」・・・、これまたマニアックだが、体の一部分の優劣を競うのである。胸、腕、腹、背中、脚の各部分とモストマスキュラー賞だ。

最初に、「胸に自信のある方は前に出てください」てなアナウンスがある。すると全員がワ〜ッと出てきて胸を強調するポーズをとりまくる。

それを見て審判が、「え〜、5番、14番、8番、・・・」というように、いいと思う選手の番号を呼ぶ。呼ばれた選手は一旦後ろに下がる。つまり胸の部分賞候補となったわけだ。そして最後まで呼ばれなかった選手は、部分賞審査からもれたことになる。

「はいけっこうです。呼ばれた方は前へ」となり、さっき呼ばれた選手がまたワ〜ッと出てきて胸筋強調ポーズをとるのである。

こうやってそれぞれの部分賞(モストマスキュラーはもっとも体全体の筋肉がごつい人賞とでも言ったらいいのか)が決まっていくのである。

「腕に自信のある方は前へ」「腹に自信のある方は前へ」、どの場合も全員がワ〜ッと出てくるので、しまいには審判長がマイクをとり、アナウンスがある前に、「はい番号の低い方から5人出て」などと整理を始める場合もある。勢いよくフロントポジションをとろうとして構えていた選手がマチャアキみたいなリアクションでズッコケたりする。

そして決勝審査。
これもまた予選の比較審査と同じように、同レベルだと思われる選手が数人呼ばれ、比較される。

客席で応援するのは、それぞれの大学の部員。自分のところの選手が呼ばれると、「はい13番見てや!」「8番!」「20番かっこええで!」などと声援を送る。

わたくし上田雄士が出場した時は、ウチの部に大量の女子部員がいたので、ボディビル会場に似合わない黄色い声援が我ら部員に飛びまくっていた。

後で他大学の部員から羨ましがられたのだが、可哀そうだったのは、決勝比較審査の時、ウチの部員が2人呼ばれた。そしてもう1人他大学の選手が呼ばれ、彼が真ん中になってポーズをとることになった。

その時、ウチの女子部員から飛んだ声援はむごかった。
「両端カッコいい!!」
真ん中の彼のポーズは小さくなっていた・・・。

さて決勝も終わり、審判がそれぞれ思う通り、選手に順位をつける。その数字の合計が少ない選手が優勝、順に2位3位となる。この時点で順位は決定するわけだが、もちろん発表は最後だ。

その前にもう一つ、審査が行われる。その名もフリーポーズ。
自分で選んだ曲(1分30秒)にのって、自分で考えたポーズを流れるようにとっていって、ポージングのうまさを競うのである。

これで「ベストポーザー賞」が決まる。つまり、優勝できなくても部分賞やベストポーザーをゲットできるわけである。もちろん往々にして、1〜3位の選手がほとんど取ってしまうのであるが・・・。

しかしこのフリーポーズ、うまい人がやるとほんとに感動したりする。観客から声がもれたり、拍手が起こったり。プロのボディビルダーになると、そこに芸術性・神聖性を求め、究極のケースになるとポージングによって「宇宙とつながる」なんて言い出す者もいる。ヨガか、おい。

これで全て終わり。
そして最後に、順位の発表にお楽しみがある。11位以下までは放送で発表されるのだが、残りの上位は発表せず、「ステージにお上がり下さい」となる。そして上位の者だけで「ポーズダウン」というのが行われる。

いわばお祭り、ご褒美みたいなもんだ。

「ポーズダウン!」というアナウンスとともに派手な音楽がかかり、各々が好きなようにポーズをとって観客と盛り上がるわけだ。そうこうしているうちに、「第10位、・・・〜選手!」、またしばらくして「第9位、・・・〜選手!」という具合にアナウンスされていく。

呼ばれた者はポーズをやめ、ステージ奥の表彰台の方へ。8位、7位、6位・・・、呼ばれない者は色々なポーズをとり続ける。

そして最後、2人だけが残されるわけだ!。
さあどっちが優勝か?!ドキドキしながらポーズダウンを楽しむ!

そして「第2位! ・・・・・〜選手!」
どぁ〜!!
残ったほうが優勝である!!

最後はたった一人でポーズをとれる栄光を与えられ、優勝アナウンスとともに表彰台の一番高い所に上がるのである。なかなかイカす演出なのだ。

このようにして大会は幕を閉じる。新たなヒーローが生まれるとともに、予想以上の結果を出せた者は究極の達成感と、評価をされなかったものは非常な悔しさとを抱え、それぞれ次なる目標を見出し帰っていくのである。

ここからのちに、日本のボディビル界をしょって立つ男が出てくるかもしれない。

これで厳しい食事制限からも解放。我ら部員が出場した時も、大会後に開催されたのは、大焼肉大会。選手4人で数十人前をたいらげた。次の日、たった一回の焼肉で体重が4キロも増えていた・・・。

あの頃、夢中になったあの世界。今もムリしてる奴らがいるんやろなぁ・・・。
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