9. 金環!


マンダレーヒルの上には仏像があり、お参りできるようになっていた。
そこには一部屋根があるため、暑さをしのぎながら、時折太陽を見て日食を確認することができる。

集まっていたのはミャンマー人と観光客を含め100人ぐらいだろうか、それぞれ太陽を見るために何やら工作したものを持っている。
ガラスの破片にススをつけたものを持っている人、サングラスにさらにカメラのフィルムをつけている人、中にはどこの病院から持ってきたのか知らないが、レントゲン写真をそのまま持ってきて太陽に透かしている人もいる。こんなもの持ってきていいのだろうか?誰かの脳のCT写真のようである。脳みそが透けた頭蓋骨の写真が並ぶレントゲンを、太陽に向かって掲げているのである。

我々は最強の日本製日食用サングラスである。あの燦然と光輝く太陽が、これをかけてみると卵の黄身のようにはっきり見える(その代わり太陽以外のものは何も見えない)。

テッチョーさんが普段教えているという、日本語教室の学生たちもいた。
男女合わせて15人ぐらいだろうか、みんな「こんにちは!」「はじめまして!」と、キラキラした目であいさつしてくる。その純粋さに圧倒されてしまい、とりあえず何か話してあげねばと、他愛のない質問やら回答やらを連発。まったく準備もしていなかったのだから、特におもしろいものを見せてあげられるわけでもない。
それでも生徒たちにとっては日本人と直接話すことのできるまたとないチャンス、それなりに楽しんでもらえたようだ。彼らにとってここに来た理由は、日食よりも日本人に会えるということのほうが大きかったようである。

あとからさらに数人の学生たちが合流してきた。中にはかなり流暢に話せる子もいる。聞いてみると、そのうちの1人、T さんは2ヵ月後から日本に留学することが決まっているという。とりあえずは語学留学。そこから大学の正規の学生となるべく勉強するという。東京の大学に来るというので、何か困ったことがあればいつでも連絡をということで連絡先を交換した。(帰国後、この子とは何度も東京で会うことになる。)

ここに集まってきた日本語専攻の子たちは、特に日本に留学しようなんていう学生は、ぶっちゃけかなりリッチなご家庭のご出身である。来ている服や持っているカバンは、そこらへんの普通の人たちが持っているものとは格段に違う見栄えだ。大卒の初任給が2000円と言われているこの国で、携帯電話を持つのに20万円ぐらいかかるらしいのだが、ここに集まってきた学生たちは携帯電話どころか、デジカメにバイク、さらには車まで持っている。
だからと言ってテングになっていたり、人を見下していることは一切なく、とにかくイキイキとして希望に満ちあふれているように見える。そして、日本人に対する尊敬の念をビシビシと感じる。

そうこうしているうちに、いよいよ太陽がごっそり欠けてきた。三日月よりも細い。
日陰に隠れて休んでいた人々も出てきた。さぁ、いよいよ金環まであと少し!
歴史的瞬間が…、おお! き、きた!
太陽がすっぽり隠れた! これぞ金環! 生まれて初めて見た金環日食!
あちこちからどよめきの声があがる。そして拍手!

あたりが真っ暗になるかと思ったら、まったくならなかった。
太陽の光というのは強烈なようで、ほぼすべて隠れていても、町は多少薄暗くなったかな?という程度である。(皆既日食だと真っ暗になるらしい。)
そしてかなり長い時間、金環状態が続く。後から知ったのだが、今後何百年にも渡って見られないほどの記録的な長さの金環だったそうである。

仏像のまわりに建てられた柱や屋根が太陽を反射している。その反射された光が床や人の服に写っている。当然その形は、真中がポッカリと真っ黒になった金環状の太陽の形である。

さて、ようやく金環状態も終わり、また三日月状態になってきたので次の場所へと移動することにした。
学生たちもそれぞれ、みんな元気よく手を振って、バイクに乗ったり車に乗ったりして帰って行った。

私たちも車に乗って、マンダレーヒルを降りて行った。

次回、「熱く語るミャンマー人」に続く…。
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