8. 僧院と西洋人と日本人


大きな僧院だった。
篤志家から食事をもらうため、その僧院の外に1000人はいようかと思われるお坊さんたちが、托鉢用の壷のような入れ物を持って並んでいる。圧巻の行列である。
その行列の中には、まだ5、6才のいたずら盛りの小坊主さんたちの姿もある。

どこで聞きつけたのか、大量の観光客もカメラを構えて群がっている。お坊さんや僧院の写真は撮ってもいいらしい。
しかしこの大量の観光客、誰もが少々緊張しているようにも見受けられる。
キョロキョロとはしているものの、みんな黙っているか、小声で話しをしている。この状況をあくまでも尊敬の念を持って見守ろうとしているかのようである。

すると何人か、僧院の中の写真を撮ろうと外側の低い塀の上から身を乗り出し、パシャパシャと撮り始めた。これも許されるのかな?? と思って見ていると、僧院の中からそれなりのランクと思われる、恰幅のいい僧侶が出てきた。
何を言うのかと思って見ていると、「どうぞどうぞ、撮るなら中にお入りください」と英語で薦めている。するとその観光客たち、「いえいえそんな、めっそうもない」というような感じで逆に遠慮し、中に入ろうとしない。
それを聞いて我らがガイドのテッチョーさんが、「入りましょう」と我々を案内してくれた。

食事をもらって、僧院の食堂らしきところに座っていく僧侶たち。その姿を間近で見る。すると、さっきの塀のところから写真を撮っていた面々が、どうやら我々の姿がじゃまで写真が撮れないようで、「もう少し右に寄ってくれ!」などと言い出した。
我々はよけてあげたのだが、同じように中に入っていた日本人観光客は、「撮りたきゃ中に入りゃいいのよ!」などと逆ギレしていた。至極もっともであるが、西洋人にとっては僧院に気軽に入ることがためらわれるようである。日本人は同じアジア人だからか仏教徒だからなのか、意外とすんなり、何の抵抗もなく僧院に入れてしまうようである。

ガイドのテッチョーさんも敬虔な仏教徒である。僧院の中にいる間は常に両手を胸の前で合わせ、他の観光客がお坊さんの通り道をふさいだりしていると走っていって、「すみません、そこを開けてください!」と人員整理に乗り出していた。

タイなんかでは、家族から1人お坊さんを出すことが名誉なこととされている、というようなことを聞いたことがあるが、ミャンマーでも同じような思想のようである。
テッチョーさんに、「食いブチを減らすために、強制的に僧院に出されるようなことはあるの?」と少し意地悪な質問をしたのだが、「本人の了解なく、強制的に僧侶にさせようということはあり得ない。どんなに小さい子でも、行きたいと言った子しか出されないのです」と返って来た。

テッチョーさん自身も今までに何度か、実際に僧院に入って何ヶ月間か瞑想などの修行をしたこともあるという。これはお坊さんになるためではなく、あくまでも自分のために自主的に入るものだそうである。

さて、お坊さんたちの昼食も終わり、観光客もゾロゾロと帰っていったので、我々もお昼ご飯に行くことにした。テッチョーさんがいろんなお店を提案してくれたが、その中からシャン族の店を選んだ。

ミャンマーにはさまざまな民族が住んでいるのだが、このシャン族はミャンマーの中部に住んでおり、そこは「シャン州」という名の州になっている。彼らは人種的にも中国人に近いのか、ミャンマー人の中でも特に日本人に近い風貌をしている。東京の高田馬場あたりにもシャン族のお店があったりするが、これが日本人の口に合う、なかなかおいしい料理なのである。
バイキング形式のため、ここでも大量に食べてしまった。

そしていよいよ、王宮を訪れた。
車でゲートの中までは入れるのだが、なかなか警備が厳しい。運転手は入口にいる係員(軍人?)に免許証を預けなければならない。

元からあった王宮はもうない。今あるのは後になって復元したものである。
さぁいよいよこの王宮の中を見よう! と思っていると、日本で買った日食用サングラスで太陽を確認するヨメさん。そして突然叫んだ。
「おおっ! 欠けてる! 欠けてるで〜!」

ええっ! と驚くテッチョーさんと私。
どれぐらいのペースで欠けていくのかが分からないため、大急ぎで王宮をあとにし、運転手の待つ車まで走っていった。

これから王宮を見るというときに、なんてタイミングの悪い太陽・・・。
待っていた運転手もビックリして、バタバタとゲートまで走っていって免許証を受け取り、マンダレーヒルへとぶっとばしてくれた。

車の中でも何回も日食用サングラスをかけ、「まだ大丈夫。まだ欠け始めたとこ、うん。ゆっくり欠けてる、うん」とつぶやいているヨメさん。
そのうち車は山道を登り始めた。前には白煙をあげながら走っている二人乗りのバイク。それ以外にも歩いている人やらピックアップトラックやら、大勢がマンダレーヒルへと登っている。ここがベストスポットだと知っているようだ。
実際、マンダレーでは街中にいても太陽をさえぎるようなものはなく、丘の上まであがっていかなくても充分見られるのだが、せっかくだがらベストポジションで見ようという、みんなそういうプランのようである。

途中まで車で登り、最後は歩いてマンダレーヒルへと上がっていった・・・。

次回、「金環!」に続く・・・。
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