13. ミャンマー舞踊


日もどっぷり暮れたころ、マンダレーにあるミャンマー舞踊団専用の小さな劇場に着いた。

開演までまだ30分もある。お客さんもまだ数人だ。
客席で手持ちぶさたにしていると、この舞踊団の責任者らしき人から「楽器を見たいかい?」と気さくに話しかけられた。
見たいというと、バックステージから「ビルマの竪琴」を持ってきて見せてくれた。ダンスを生演奏で見せてくれるようで、客席の一番前のエリアは床が一段低くなっており、そこに楽器演奏者がチューニングなどをしながらスタンバイしている。そこにある楽器も1つ1つ触らせてくれた。

すると今度は「楽屋でダンサーに会ってみるかい?」と言う。本番前に会うなんて申し訳ない、などと遠慮していると、「大丈夫だから」と奥へと案内してくれた。
そこではこれからの出番に向けて準備万端、民族衣装の女性が3人スタンバっていた。一緒に写真に写ってもらい、そそくさと出て行った。本番前にどうもすみません…。

そして客席に戻り、しばらく待っていると音楽が鳴り始め、ダンスが始まった。

男性の踊り、女性の踊り、男女の踊り。そのヒラヒラとしたダンスを見て、どこかで見たような気がしてきた。
あ、これは、バガンで見たあやつり人形、あの動きにそっくりだ!
この人間の動きをマネてあやつり人形を動かしているのか?
もしそうなら、あやつり人形の動きはすごかった! 人間の踊りにそっくりやったやん!

実は、後からいろいろ調べてみたところ、最初に誕生したのはあやつり人形の踊りのほうで、人間のダンスはそれをマネて誕生したということらしい。
ヒラヒラとしてどうにも予測がつかない踊り方、ときどき腕や肘をクネクネと動かして踊るあやつり人形のさまを見事に肉体で表現しているからこそ、人々がおもしろがって見るのだろう。何やら妙に合点がいった。

5分ずつぐらいでいろんな踊りを見せていってくれる。しかし、この舞踊団で踊りがとてもうまかったのは、女性一人だけだった。あとはそれほど感動することはなかった。その分、この一人の女性の踊りだけは格段に衝撃的だった。肩や肘の関節の柔らかさと動き、身のこなし、一切気の抜けることのない見事な流れ…。

中には踊りではなく、セパタクローで使う籐のボールのようなものを蹴り続け、曲芸を披露する女性もいたりして全体的な演出としては「?」マークもたくさん出現したが、この女性だけは、才能のある人が技術を磨けばここまでの踊りになるのかと感心した。

また、ミャンマーの独特の踊り方だけではなく、その衣装にも少し驚いた。すそ(後ろ部分)がとっても長いのである。踊っている最中にしょっちゅう足で払うようにしなくてはならない。忠臣蔵の松の廊下、はたまた遠山の金さんの登場シーンのようである。すそが長いほうが優雅に見えるためにそのようになったのだろうが、ある意味こんなに「邪魔」になるような衣装で踊っている民族舞踊は見たことがない。

そんな踊りに大満足した我々は、テッチョーさんと一緒にツアーを回ってくれていた運転手の車に乗り、ホテルへと戻った。テッチョーさんのガイド時間はとっくに終わっているため帰ってしまったのだが、運転手には別途お金を払うということで、送り迎えだけしてもらえることになっていたのである。

今日一日であらゆることを体験してしまった。まったくもって内容の濃い、あまりにも濃すぎるマンダレーの一日がようやく終わった。

次回、「ヤンゴン」に続く…。
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