3. 旅立ち前のスッタモンダPart.2


旅行に行く2日前の明け方、調子が悪くて目が覚めた、
お腹が痛い、気持ち悪い、寒気がする。
トイレにかけこむとピーピーの下痢。
なんと食あたりを起こしてしまったようである! 行ってからならまだ分かるが、まさか行く前の日本でやられてしまうとは!
下痢が止まらない、吐き気がする、そして38度を超える発熱・・・。
ここ2日間、ヨメさんとほぼ同じものを食べていたにも関わらず、自分だけがあたってしまった。ヨメさんはピンピンしている。

出発は明後日。このままでは旅行に行けなくなる! それだけは避けたい!
症状がひどいため病院に行くことにした。

歩いてはいけそうもないのでタクシーを拾おうと思ったが、なかなか来ない。
ようやく拾ったタクシーの運転手は、もう70歳近いじいさんだった。
「あぁ、あそこの病院かい、えー? こんな休日にやってるとこは、あそこしかねぇわな!」と、見事な江戸っ子弁で話し始めた運転手のじいさんは、人が苦しんでいるのも気にせず話しまくる。

「咳も痰も出ないんなら、そりゃ食あたりだ。間違いねぇな! 休みの日に限ってそういうことになるんだよ。な!」
「ええ・・・。でぼ、おなじぼの食べでも、ヨベさんのほうはピンピンしてるんでずよ・・・」
「そんなもんだ! 女ってのは鈍感にできてるから、ちょっとやそっとのことじゃビクともしねぇな!」
「じづは、あざってから海外旅行にいぐんでず・・・」
「海外旅行だぁ? どこぉ?」
「ミャンマー・・・」
「ミャンマー? これまたえれぇなじみのねぇところだな、えー? オレも旅行はよく行くんだよ。バリ島なんかよ」
「バリ島? ぼぐぼ行ったごとあるっすよ!」
「おれは2回だ、2回。でも最近は沖縄がいいな! 来月ぁ石垣だ、石垣!」
「いじがぎ? ぼかぁ最近、西表に行ぎばじだよ!」
「そうかい! じゃああれだな、アジアはもうたいていのとこは行きましたって、そういう寸法かい?」
「ええ、ばぁ、あぢごぢと・・・」
「それでビルマかい! これで合点がいったってなもんだな!」

話は楽しいんだが、こちらの状況が悪すぎる。もう少し声のボリュームを落としてもらしたいと思っていると、早々と病院についたようだ。
「着いたよ。ここ出て左だ! ただの食あたりだな! 心配するこたぁねぇ!」と、江戸っ子じいさんの大きな激励を背中に浴びながら病院に入ったのである。

やはりウィルスにやられたらしい。ノロかもしれないとか。
ノロウィルスは3年前にガッツリやられている。あの時は3日間何も食べられなかった。2日後に旅立つのにこれでは間に合わないではないか・・・。

「まぁ、油物や冷たいものは控えて、消化のいいものだけ食べて、ネ。胃腸薬だしておきますから。それで様子みましょう」などど、医者はのんきな対応だ。これはカミングアウトせねばならない。
「ずびばせんが、あざってから海外旅行にいぐんでずよ」
すると医者の表情がキッと変わり、「どこに行くんですか!」と半ば詰問のように聞いてくる。
「あど〜、東南アジアのほうに・・・」
「熱があったら入国できませんよ!」
だから言ってるんです! 熱を下げて欲しいんです! お腹はもう向こうであたったと思ってやり過ごすんで!
「じゃあ、下痢止めも出しましょう!」
どういうこと? 下痢止めたら熱下がるの?

下痢止めを飲むと逆に便秘になるため、出されても全く飲むつもりはない。
結局、医者の結論は、「胃腸薬だしておきますから、これで様子みましょう」・・・。
解熱剤は胃腸に刺激が強いため、今の状態で飲むと逆効果になるらしい。
「また、2、3日後に来てください。」 だから! ミャンマー行くの! ミャンマー!!

やたらと待たされた挙句、この対応ですっかり意気消沈し、家に帰ったころにはまさにホウホウの体だった。

無事復活できるかどうか、開きっぱなしで空っぽのスーツケースを見ながら、「当日にキャンセル、支払った代金は一切戻ってこない」という最悪のシナリオが頭をよぎった・・・。

次回、「のってる!」に続く・・・
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のってる!