Illusion


今回は、「イリュージョン」な作品である。

マイムは道具などを使わずに演じる、つまりそこにないものをあるように見せるというのが基本となるが、マイムでいう「イリュージョン」とは、通常「パントマイム」と聞いてみんなが思い浮かぶような「テクニック」のことをいう(たとえば、手をペタペタとやって見せる「壁」や、ギクシャクと動く「ロボット」など)。

そのようなイリュージョンを使ったり、これぞテクニックという要素を盛り込んだ作品を紹介する。

まずは、「空き缶」(「熱いぜ!」と改題して上演したこともある)。
飲み終わって道端に投げ捨てた空き缶が、コロコロと転がって自分のところに戻ってくる。今度は遠くに投げてみる。落ちずに空中を飛んで戻ってくる。
そうこうしているうちに空き缶が空中で停止し、まったく動かなくなって…、という流れである。
空中の1点で固定されて動かない空き缶、それをムリヤリ動かす様。投げた空き缶が前から戻ってきたり、上から戻ってきたり、挙句の果てには巨大化したりと、これぞパントマイムテクニック。

キャラクターやストーリーを伝えることをやりたいと思ってマイムを始めたこともあり、こういったいわゆる高度なテクニックを使う作品はあまり作っていない。実際、このようなイリュージョンが自分よりうまい人はいっぱいいるし、そういう人たちを尊敬している。だからこそ、何も自分がそこに挑もうとは思わなかったりするのだが、この作品はあえてパントマイムテクニックを1つ選び、そこから作っていった作品である。

つづいて、「あやつり人形」。
これも、あやつり人形というテクニックをマスターしてみたいと思って作ってみた作品である。「空き缶」と同様、テクニックとストーリーをうまく融合させられたら、という思いで作った。

いつもいつも人に操られているあやつり人形が、自分の意思で動きたいと、つながれた糸を切っていく。さぁあと1本、これを自分で切ってしまえば自由に動ける、そう思ったのも束の間、どうしても最後の一本が切れない。果たして彼に自由は訪れるのか??

あやつり人形のように見えるよう動くのは非常に難しい。何を演じていてもそうかもしれないが、それらしく見せるのに必要なのは「テクニック」だけではないのである。

そして、最後は「右手」。
これは、誰もが知っているような典型的な「パントマイムテクニック」とやらを使っているわけではないのだが、「マイムっぽい」と言われることも多いためこのカテゴリーに入れてみた。本人の意思とは関係なく右手が別の生き物のように勝手に動く、という作品である。

場所は立ち飲み屋(本当は「酔っぱらいを演じたい」がために作った作品だったりする。酔っぱらいを演じるのは非常に好きである)。
ビールを1杯、2杯、3杯。飲みっぷりがひどくなってきたところで、本人の意思に反して右手が人格を持ち、飲むのを止めようとコップを掴んだり、顔に貼り付いたり。男はこの自分の右手の動きを止めるために捕まえようとするが、逃げ足が速くてどうにもこうにも捕まえられない。追いかけ合いをしているうちに右手が立ち飲み屋の中で暴れだした!

心のどこかで「ほんとはこんなに飲んじゃいけないんだよなぁ」と思いながら飲んでいる、そんな人はいませんか? そんなあなた! 飲むのを止めようと 「右手」が勝手にウヨウヨ動いていませんか??

次回は、 「Heartwarming」な作品を紹介する。