運転手はバトンタッチ


次の日は車をチャーターして、ブハラという町に行くことになっていた。
町全体が世界遺産という、あまりにも魅力的な場所である。

運転手はちょっぴりダンディーでイケメンなおじさん。鋭い眼光で狭い道をスイスイと運転し、大きな道へと出た。
ところどころにガソリンスタンドがあるのだが、どこも車が行列している。
彼にきいてみたところ、どこのスタンドもガソリン不足で、だからといって燃料カラッポで走るわけにも行かないから、ああやってガソリンが入ってくるのを待つしかないんだという。
近隣の産油国等の事情だろうか、とにかくガソリンの値段もあがって大変らしい。

ブハラまでは車で5時間ぐらいかかる。途中、食事休憩をとることになった。
運転手のおじさんと3人で、鶏肉の入ったスープやシャシリク(シシカバブ)、ナンにお茶を楽しむ。
おじさんに年齢を聞いてみると、なんと自分と一緒だった。
いや、彼はそれでもまだ若く見えるほうだろう。
「運転の仕事は疲れるからな。君の仕事は運転手じゃないだな?」と言う彼。
子供が2人いるらしい。
「子供にはどんな職業についてほしい?」と聞くと、「自分と同じ運転手がいいな。いろんな国の人に会えて、とてもおもしろい仕事だよ」と言う。
自分の仕事に誇りを持つことは素晴らしい。彼は根っからこの仕事が好きで性に合っているのだろう。

彼は私たちの出発地であったサマルカンドに住んでいるという。
今日は私たちをブハラまで連れて行き、その日のうちにサマルカンドまで運転して帰るという。

レストランの中を見渡してみると、ウズベク人らしき人たちばっかりだ。
そこに、どうも日本人らしきカップルが入ってきた。

あちらも運転手を連れているようである。そして、私たちの運転手とあちらの運転手は知り合いのようである。
おそらく同じ旅行会社だかチャーター会社なのだろう。運転手同士で何やら話している。
向こうは逆方向、つまり私たちはサマルカンドからブハラ、向こうはブハラからサマルカンドに行くようである。

すると、私たちの運転手がこちらに振り返ってこう言い放った。
「ここから運転手が変わります」

合理的である。
運転手は2人とも、往路だけお客さんを乗せて、復路は家に帰るためだけに乗客なしで運転しなければならない。
つまり、ここで車(と運転手)をスイッチすれば、運転手の労力は2人とも半分で済むのである。そして家にも早く帰れる。燃料も半分で済む。

運転手同士が話している間、私たちもせっかく日本人に会ったんだし、彼らは先にブハラを見て回っているようだから何かおもしろい話でも聞けないかと話しかけてみた。向こうも私たちと同じくらいの年齢の夫婦であった。

しかし何を聞いても、「いやー、インターネットがつながらなくて」とか、「ホテルのサービスが良くなくて」とか、日本の生活をそのまま続けられないという不満ばかりが出てくる。

おもしろくない。というか、それならなんでウズベキスタンに旅行に来たのだろうか??

マスクをしながらモゴモゴ話しているのでよく聞き取れない。この国では誰もマスクなんかしてないじゃないか。そんなもの、はずしてしまえ!

・・・というわけで、特に大した会話もできず、別れることになった。
ここからは別の運転手になった。

次回、「モスクですっかり陽は暮れて」に続く・・・。
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