ユーアーマイフレンド


日本人がやっている店ではなかった。彼はただのお客さんだった。
中で陽気なウズベク人と出会い、ワイワイやってるので一緒に食事しましょうと誘ってくれたのである。

いきなりその陽気なウズベク人おじさん2人に「まぁ座れ座れ」と手招きされる。
まだ何も頼んでないのに、いきなりお茶をコップにつがれ、「まぁどうぞどうぞ」とばかりに勧めてくる。レモンと砂糖が入った、あまりにもおいしいお茶だった。
「おお! おいしい!」と、早速同じものを注文し、ウズベク語、ロシア語、日本語、英語での会話が始まった。

身振り手振りで「このナンを食べろ? どうだうまいか?」、「こいつは酒が強い。見てみろ、体もデカイだろ?」、「相撲チャンピオンだ!」などと、テキーラの一気飲みを繰り返しながら話しかけてくる(たぶん内容は合ってるはず)。

そして恐れていた通り、「さぁお前もテキーラを飲め! 」と来た。
酒に弱い自分がテキーラなんて飲めるわけがない。
こうなったらヤケクソや、ウズベキスタンで人生初テキーラじゃい!と、グビっといってやった。

あぁ! 痛い! 舌がシビレる! ノドが焼ける! 食道が燃えてるでー!!
ムリっす! 相撲チャンピオンさん、さすがにテキーラはムリっす!!

苦しそうな様を見て大笑いするおっさん2人。
実は旅行前にiPhoneにウズベク語アプリを入れておき、あいさつやレストランでの注文、簡単な文章が音声で出るようにしておいたのだが、ここでこそ使ってやろう!と、「助けて!」の単語をタップしてみた。
「ヨルダンビリーン!」(←iPhoneの音声。ウズベク語で「助けて」)

おわーっと、歓声と笑いが巻き起こる。
再度、別の単語を選んで画面をタップ。「救急車を呼んでください!」
どわー!はっはっは!
「こいつはスゴい。お前はアインシュタインか!」と、謎の感嘆の声をあげるウズベクおじさん。
さらにタップ「トイレはどこですか?」
「あっちだ!」
最後のは間違って押してしまったのだが、案内してくれたのでトイレに行くことにした。

とにかくこのまま続けていれば、普通に朝まで一緒にいるんじゃないかというぐらいテンションの高いおじさんたち。
「ユーアーマイフレンド! ジャパニーズ アー マイフレンド!」と何度も繰り返す。
ヤバイ、お酒に弱い自分がこのまま飲み続けたら間違いなく悪酔いしてしまう・・・。
そう思い、「申し訳ないですが、そろそろ帰りますよ」と告げ、ウェストポーチに忍ばせていた日本の絵葉書をプレゼントした。
おぉー、ジャパニーズサクラの写真じゃないか!と歓声をあげる2人のおじさん。
とても喜んでもらえたようである。

実は今回、何かあったときのためにと、日本のキャンディ1袋(子供にあげる用)と、絵葉書10数枚を持参してきていたのである。
帰るタイミングを完全に失っていた日本人の彼は、やっとこれで帰れると胸をなでおろしている。
おじさん2人とはメアドと住所を交換し、別れた。
外に出ると、もう夜になっていた。

暗い道を途中まで、我々夫婦と日本人男性の3人で歩いて帰る。
彼は少し離れたところにある格安ホテルに泊まっているらしい。
この日本人の男性は、会社を辞めて長期の旅行に出ているとのことで、もうアジア諸国を7ヶ月もかけて回っており、次はイランにいくとのことだった。

「子供に囲まれた」という話をすると、彼も「自分たちみたいな外国人は人気みたいですよ」と言う。
実は彼もこの前の日、町で子供に話しかけられたらしい。そこで一緒に遊んでいたら「ウチに遊びにおいで」と言われ、「すぐそこに家があるから、ご飯でも食べていきなよ」と誘われたという。
一般のお宅にお邪魔する機会なんてそうはないため、ちょっと行ってみようと子供についていったら、家にはお母さんと、彼と同い年ぐらい(おそらく20代半ばぐらい)の女の子がいたらしい。
なんとなく楽しくなって、出されたお茶を飲んでいると、その女の子のお兄さんが帰ってきた。
するとそのお兄さん、無精ひげを生やした変な日本人の男が家にいるもんだからビックリして急に怒り出し、「出て行け! なんでお前がウチにいるんだ! 出てけ!」と、彼を鬼の形相で追っ払ったそうである。

呼ばれたから行ったのに、行ったら追い出されたと、なんとも不可解と言わんばかりの彼だが、年頃の女の子がいる家でヘンテコな旅行者がお茶を飲んでいたら、たいがいのお兄さんは同じようなことをするんじゃないだろうか??

しかし、普通なら家に誘われるなんてちょっと怪しいし、何かの事件に巻き込まれないこともないが、とりあえずそんなことは全くなかったところが、やはりこの国の人たちの素朴な人柄を表しているような気がしてならない。そう思うのは自分だけだろうか?

彼に別れを告げ、私たち2人はホテルに向かって歩き始めた。
小腹は埋まったものの、やはり何か食べたい。
途中、小さなレストランらしきお店があったので、そこで夕食をとることにした。

次回、「停電したら手元見えないのでとりあえず電気つくまで待ちます」に続く・・・。

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停電したら手元見えないのでとりあえず電気つくまで待ちます