こいつらの場合―ボディ・ディストラクション



全6回の予定でやっております、うへだゆふじの極私的偉人伝。
今回は6回目、つまり最終回である。

その栄えある第6回目に紹介するのは、個人ではなく団体である。

一括りで言うならば、「学生ボディビルダー達」ということになろうか。
今日は彼らのやりすぎぶりに感動してもらいたい。


私は大学の時、体育会ボディビル部に所属していた。
しかし専門はボディビルではなく、体重が軽いわりには力が強いということを買われてパワーリフティングの方を専門にしていた。
ところが3回生の時、後輩に誘われるままに、ボディビル大会に出場することになってしまった。


ボディビルは、ただ体がデカければいいのではない。
もちろん筋肉は大きくなくてはいけない、それは絶対条件だが、かといって相撲取りのような体では予選も通らない。
カットとディフィニッションが必要なのである。(なんか専門バカっぽいが、要するにいかに脂肪を落とせているかということ)。

腹筋がわれてるのはもちろんのこと、人によると大臀筋(だいでんきん=お尻のほっぺたのこと)にまで筋が入っている。
そしてポージングのうまさ、いかに黒く焼きこんでいるかなどの見栄えも審査に影響する。

ボディビル部に入って以来、先輩にとにかく食えと言われ、3回生の頃には少しばかりのぜい肉をつけていた私は早速、減量に入る事となった。

食事は一日1,500kcal。ご飯(白米)は一日500g。
その他、鳥のささみや野菜、卵の白身など。
卵は白身だけ食べるのである。ゆで卵にして黄身は捨てる。
その他、油ものやジャンクフードなど、カロリーの高いものは食べない。
お菓子なんてもってのほか。
それであとはひたすらトレーニングの日々を送るのである。


ほんとに減量というのはツライ。

ダイエット食品で簡単にやせられます! なんて絶対にウソである。
体脂肪を落とすには相当の覚悟と慎重さが必要だ。

減量を続け、その間、日焼けサロンで体を真っ黒に焼き、私は一ヶ月間とことん体を絞った。
他の部員達も同様、ゲッソリしている。
大会一週間前になると体力的にも精神的にも限界が来て、お互い何を言ってるのか分からない。
会話が成立しないのである。

今思うとすごいのが、気がつくと私はジャージ姿で通学していた。
電車の中でなんかみんながジロジロ俺の事を見るなぁと思ってたらジャージだった。
しかも太もものところに大きな穴のあいた。
自分が何を着ているかの自覚もままならない。


そして大会2日前から塩を抜き、前日あたりから水も飲まない。
そうなると、階段をちょっと上るだけでも息がキレる。
部員で一緒に上っていると、ほとんど倒れる寸前だ。

真っ黒な肌とするどい顔、そしてやたらとイカつい体をした男どもが階段の途中で息がキレて休んでいるのである。
これは誰が見てもギャグである。


そして大会当日。

午前中は予選。早いとたったの30分で終わる。
下手をするとこの30分で、自分の晴れ舞台が終わるかもしれないのである。
それでも、そのために修行僧みたいにストイックに準備するのである。


結局私は予選を通り、本戦でもいい勝負ができた。
(いい勝負って? と思われるかもしれないが、ボディビル大会についてはまたの機会に書いてみたいと思う。みんなの知らない世界、きっとおもしろい)。

上位6人までが入賞で表彰されるのだが、私はなんとかその6位に入ることができた。
この時の達成感は忘れられない。

結局この大会は、ウチの部員が優勝、準優勝をさらい、団体成績でも1位となった。
主将をやっていた私としては大いに誇れるすばらしい結果。
この時ぐらいじゃないだろうか、このまま死んでもいいとさえ思えた瞬間は。(減量で多少ラリってはいたが)。


私は出場しなかったが、学生ボディビルの全国大会というのがある。
これがまたすごい。

信じられないようなデカい体。完璧に絞りこまれた肉体。
闘志むきだしでポージングをとる角刈りの男。
審判に「オレを見ろ!」とばかりにアピールするスキンヘッド。
中にはポージングで力を入れる時に息を止めていたのか、そのまま貧血を起こして舞台上で倒れそうになっている者までいる。
ギャグのようだが本人は必死である。


一度こんなことがあった。

関西大会で優勝した、それはもうほんとに1ミリの脂肪もない、サイボーグのような体をした人がいた。
もう人間業とは思えない、筋肉だけのかたまり。

どれほど苦しかったであろう、そんな肉体を築き上げるのにどれぐらいの犠牲を払ったのだろう、それを考えるだけで涙が出てきそうな、感動するような肉体であった。

そんな彼は全国大会に出場し、見事準優勝に輝いた。
大喜びした彼は次の日、なんと病院にかつぎこまれたのである。

病名は、「栄養失調」。

この飽食の時代に、サイボーグのような体をしてタンカで運ばれて、「栄養失調」。
医者自身も誤診かな? みたいな顔をしながら、
「え、栄養しっちょ」とつぶやいたらしい。

ほんとにバカだ。
バカでストイックで素敵だ。
ボディ・ビルディングなのに、これじゃあ全くボディ・ディストラクション(破壊)である。
ムリせずがんばってほしいものである。


さぁ、そんな彼らを偉人伝に加えよう。奴らの名は学生ボディ・ディストラクター達。

The Men of Legend!!!



とりあえずこれで、極私的偉人伝の連載は終わりである。
また書きたくなったら書くかもしれないし、書かないかもしれない。
これらを上回るような偉人に出会えることを楽しみに、このコーナーの幕を下ろしたい。

では。

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