M君、そして私の場合― 一所懸命!


極私的偉人伝、一回限りの復活! ということで、中学時代からの友達だったM君と私がしでかした、あまりにもバカでおちゃめな偉業について書き綴ってみたいと思う。

ある年のゴールデンウィーク、M君とS、そして私の男3人だけで滋賀県のとある川べりでバーベキューをしようと出かけた。
確かその時、私は就職したての新入社員、しかしもうすでに仕事に嫌気がさし始め悶々とした日々を送る。
またSは、大学は卒業したものの就職に失敗し、これからどうしようかと悶々とした日々。
そしてM君は大学4回生、さぁこれからどこに就職しようかと悶々とした日々。

そんな悶々3兄弟(?)が、寄って集まり肉を買い野菜を買い、飯盒に米に新聞紙に網に、いるかどうか分からないキムチまでありとあらゆるものを用意し、車で繰り出したのである。

そして川べりに到着。
バーベキューをするのにベストなポイントを見つけ、用意してきたものを広げ、準備完了。
さぁ、じゃあ火を起こそか! という段になった。

すると・・・。

あ、ライターがない・・・。

え?

肉も野菜も、網も新聞紙も皿も箸も、何一つ足りないものはない。
例えば、野菜を買うのを1つ忘れた、としてもまぁ仕方がない、バーベキューは遂行される。
しかし、たった一つ、それがないと何も出来ない物がある。

火をつけるもの。

ライター、もしくはマッチ。

忘れた。3人ともタバコを吸わない。
茫然と立ち尽くす3人であった。

そこでS、「仕方がない、どっかでライター手に入れてくるわ」、と1人で去っていった。

残されたM君と私。ヒマである。

目の前においしそうな、ありとあらゆる肉が準備されている。
米もといで飯盒にいれてある。
薪になるような小枝もいっぱい拾った。
それらを眺めながら、二人ともヒマである。

そこで、どちらともなく口を開いた。

「・・・Sが帰ってくるまでに、火おこしたろか・・・」

おぉ! それはいい!

Sが帰ってくる頃にはバーベキューを2人で始めてて、先に食って楽しんどこやないかっ!
そして、「あれ、今頃帰ってきたん? もう食ってんで。」と何食わぬ顔して、Sを悔しがらせてやろうやないかっ!

異常にワクワクした腹ペコ兄弟は、早速、どうやったらライターなしで火を起こせるか、知恵を絞り始めたのである。

まず浮かんだのが、理科の実験かなんかで一度やったことがある、縄文人が火を起こしたという、木と木をこすりあわせる方法!
これで火を起こせるんちゃうか〜!!

早速、ウキウキでそれに使えそうな木を2本拾い、どうにかこうにかこすり合わせられるように、木を手で引きちぎったり折ったりしてみた。
そしていざこすり合わせ開始!

すると・・・。

おぉ!すごいぞ!

全く火が起こる気配がない!!

そんな簡単に火が起こせるわけがない。
そんなんできたら縄文人に失礼や。
っていうか、俺ら縄文人以下か?

疲れた。そしてやめた。

なんかもっといい方法はないもんかなぁ・・・、そや! これやってみよ!

火打ち石!!
石と石をぶつかり合わせたら火が起こるはずやん!!

早速2人とも手頃な石を拾ってきて、力いっぱいコンコンと打ち始めた。

コン!コン! コツンコツン!
あて! 指はさんでもうた!
コツンコツン! ガシッ! カッ! カッカッ!

気がつくと、2人とも必死になりすぎて、5月初頭というのに額から汗が出ている。
無言で懸命に打ちすぎ。

疲れた。指痛めた。そしてやめた。
理論上はできるんやろうけど。

っていうか、もっとちゃんと条件を整えなあかんのちゃうか。
はたから見ればこんなにバカなことはないが、しかし、とりあえず試してみたいのである。

なんか他にいい方法はないものか・・・。

そや!

最近ネコやら犬よけに、電柱のそばにペットボトル置いてるやん、あれが日光を集めて虫メガネのように焦点を作って、木の電柱を焼いたっていうニュースを見たぞ!

それや! ペットボトルや!

早速ペットボトルを取り出し、そこに日光を通して新聞紙に焦点を作ろうと試してみる。
虫メガネのかわりにペットボトルを使って焦点を作り、新聞紙を焼こうという魂胆である。
色んな角度でやってみた。

すると・・・。

おぉ! すごいぞ!

全く焦点が合わない!!

よって火がつくわけがないぞ!

しかも取り出したペットボトルがウーロン茶だったために、なにやらボワーンとした茶色いものが新聞紙に写るだけ。
無理! そんなんで火を起こすなんて土台無理!

さぁ困った。万策尽きた。

ふと見ると・・・。
20メートル先に、我らが乗ってきた車があるではないか!
たしか自動車には、あのラジオとかが取り付けられてある横の方に、タバコに火をつける用にライターが備え付けられてあるはず!
たしかどの車も標準装備で!

あのほら、押したらしばらくしてポンッと戻ってくるやつ。
で、引っ張ると取れて、先がジワーっと燃えてるやつ。
そこにタバコの先をつけるの! すると燃えるの!
あれ! あれを利用するの!

さっそくチャレンジ。

押してみる

ポンッと戻ってきた!

さぁ引っこぬいた!

そして!

・・・どうすんねん!

これ持って20メートル走るんか??
消えるぞ、そんなもん。

どうすんねん!

新聞紙を車のところに持ってきてみた。
ライターからその新聞紙に火をうつし、それをたいまつのようにして走ろう。

さぁもう一回チャレンジ!

ライターを押す。
戻ってきた!
引っこ抜いて新聞紙に火をつけてみる!

おぉ!すごいぞ!

新聞紙の端がジワッと焦げるだけ!!
燃えるわけがないぞ!!

疲れた。どうにもこうにもアホらしくなってきた。

ま、所詮お遊びさ。
ちょっぴり汗かいたけど。

そう思って時計を見ると、かなり時間がたっている。
2人とも異様に腹がへっていた。
そりゃそうだ、ここまで来るのに時間がかかり、さらに今になっても何にも食べられない。
日は少しずつ傾き始めている。
どうにもこうにも辛抱たまらん。
Sはまだ戻ってこない。
そこで腹ペコ兄弟は思いついた。

「・・・サッポロポテト、食べよか・・・?」

Sが自分用にと買っていた、サッポロポテトである。
俺のやから絶対食べるなよ、と言っていたサッポロポテトである。
バーベキュー後に食べようと、Sが楽しみにしていたサッポロポテトである。

2人でポリポリ食べ始めた。

「これ食ったら、S、怒るかなぁ。」
「まぁ怒るやろなぁ。」
「ええんか? こんなに食うてええんか?」
「ん〜、でも他に食うもんないしなぁ。キムチでも食うか?」
「アホか。キムチだけで食えるか。」

そんなムダな会話を繰り返しながら、Sの帰りを待った。

しばらくしてSが、コンビニで買ってきたというライターを持って戻ってきた。
食い散らかされたサッポロポテトを見て、Sが涙目でキレたのは言うまでもなかった・・・。

さぁ、そんな我らを偉人伝に加えよう。我らの名は腹ペコ兄弟。

The Men of Legend!!

・・・ちなみにこのM君は最近、結婚した。
私はその披露宴でスピーチを行ったのだが、たまにM君は、なんでこんなしょうもないことに一生懸命になるんやろうという事があるので、そういう時は引いて見るんじゃなく、一緒になって楽しんで下さいと、奥さんに助言しておいた。

・・・なんてムダな助言・・・。
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