第4章 戦う気のないダンス

ホテルのスタッフに尋ねてみると、どうやらホテルのすぐ近くに食事をしながら舞踊を見られるところがあるという。

店に着いて注文を済ませると、早速、民族舞踊が始まった。

音楽は主に打楽器である。インドネシアのガムランにも似たような、音階もいわゆる西洋のものとは少し違う響きである。
そこに踊り手が数人登場し、ヒラヒラと手を動かして踊っている。
どうやらこの地域で見られる踊りは、アートやエンターテイメントとして確立しているわけではないらしく、まだまだ原始的なようだ。

1つのダンスが終わり、違う民族のダンスになった。男は槍のようなものを持っている。これは確かに槍なのだが、柄の部分は筒のように穴が空いていており、吹き矢ができるようになっているのである。戦いをイメージする踊りなのか、男性も女性も時々雄叫びのような声をあげながら踊っている。

料理を食べながら見ていると、舞台で踊っているダンサーが降りて近づいてきた。すると私の前に止まり、「Try it? Just blow.」などと言う。前に出て吹き矢を試してみないか、というのである。やっぱ俺が指名されるの? 興味深々なのがバレバレか?!

呼ばれたのは3人。まず一人目の女性が吹き矢を持たされた。標的は舞台上に掲げられた風船である。そこへ舞台下から吹き矢を飛ばして割れというのである。

結構な距離がある。こんなもん素人にやらせて当たるわけないでしょうに…、などと思っていると、その女性、プッ! パンッ! と一発でヒットさせた。
え〜? ひょっとしてサクラ? と思うほど見事であった。
その女性はそのまま舞台に上げられ、女性ダンサーと一踊りし、席へと戻っていった。

私は2番目。しかも男。妙にプレッシャーがかかる。
横で男性ダンサーが「ここを持って、こうして」と教えてくれるのだが、だからといってサポートしてくれるわけでもなんでもない。全て自力でやらなくてはならないのである。
ヨメさんもカメラを持ってウロウロしながら、時々フラッシュをたいている。プレッシャーのかかっている顔を写真に撮られてしまった。仕方がない、気合を入れて吹いてみるか…。矢がプリッと下へ落っこちては恥ずかしいので、思いっきり吹いてみた。
え〜い! プッ! 
お〜! はずれた! 矢が風船の下を飛んでいったぞ!

仕方ない、これで終わりかと思い帰ろうとしたら、「もう一回」と言われ、一歩前に出させされ、はいどうぞ、となった。
もう一回やるの? 当たるまでやらされそうである。しかしまたなんのサポートもない。さらしものにでもされたような気分である。今度こそ当てないと場が盛り下がる。何よりテーブルに帰れない。いやいや日本にも帰してもらえないぞおい! そう思い、次こそはと集中して吹き矢を放った。
プッ! パンッ!

お〜! …あ、あたった、あったぞおい! やったぞエイドリア〜ン!
と思っているのも束の間、盾を持たされ舞台に上がれと言われ、ダンサーに「ほら、まねして」と言われ、わけも分からぬままクネクネと踊らされた。
踊りの意図が分からないので、どうしたらいいのかと迷っていると、「Fight! Fight!」と言われた。やはり戦いの舞らしい。よし、戦うように踊ってみよう!と、男性ダンサーの方を見たのだが、この男性ダンサー、ちっとも向き合おうとしてくれない。一人でウネウネと動いている。
仕方がないので自分も無視してウネウネと動いてやった。するとちょっとノッてきた。お、こんな感じか? こうすればいいのか?! コツがつかめたぞ! いい感じ!
…気がつくと、ダンサーはもう踊っていなかった。いつの間にか終わっていたようである。一人で楽しそうに踊ってしまった。

このあと、日本でもよくやるバンブーダンス(竹の棒を2本、両側から二人で持って、トン、バンバン、トン、バンバンなどと閉じたり開いたりするやつ。そこを足をはさまないようにジャンプするやつ)が始まった。
そのうちにスピードが速くなり、男子と女子が手をつなぎながらジャンプしたりして、見ているこちらも足をはさまないかとドキドキしてしまう。なかなか見応えのあるダンスであった。

食事のほうはというと予想以上に一品一品が大きく、食べきれないほどであった。しかしなかなかうまい。食事には全く困らないことを確信した。

今日は思い通りに事が運び、非常に満足である。明日はホテルのビーチからスピードボートで15分ほど行ったところにある、5つの島をめぐるツアーに参加する。
今日もまた泥のように深い眠りに就いた…。

次回、「ファイブ・アイランド・ホッピング!」に続く…。
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