想像もしていなかった展開


遠かった。
ようやく飛行機はスリランカのコロンボ空港への着陸態勢に入った。
飛行機が遅れたわけでも、不測の事態が発生したわけでもない。予定通りの時間である。
しかし朝起きてからここまで、すでに24時間が経過している。
ようやく到着だ。

コロンボへは成田から直行便が週2便あるのだが、曜日の合わない我々は別の国を経由して行かねばならなかった。マレーシア航空を選択した我々はまずクアラルンプールまで飛び、さらにそこからモルディブのマーレを経由してスリランカのコロンボへと向かったのである。

機内で隣に座っている我がヨメさんは、昨晩ほとんど睡眠時間が取れなかったにもかかわらず、映画を見たりゲームをしたりして元気いっぱいである。機内食もモリモリ平らげている。

そんな彼女を見て、頭痛に襲われていた私も「負けてなるものか!」と奮起し、必死で機内食をかきこんでやった。そして紅茶やジュースをガブ飲みしていると、ようやく頭痛がやわらいできた。よし! これで俺も映画やゲームを楽しんでやるぞ! と思って隣を見ると、満腹になったヨメさんは満足そうにスヤスヤ眠っている。

そもそも今回のスリランカ旅行は、ヨメさんがどうしても行きたかったのである。行かねばならなかった。
なぜなら、アローシャの結婚式に出席するからである。

アローシャ・・・。スリランカ人で、九州にある大学に留学していた女性である。ヨメさんはその大学の東京オフィスにて、就職活動を支援するポジションとして働いていた。アローシャは東京で就職しようとオフィスを毎日のように訪れ、求人企業を探していたのである。しかし同じように就職活動をしていた留学生たちが次々と決めていくなか、彼女だけはいつまで経っても決まらず、その頼りなさそうな発言の数々をヨメさんから聞かされていた私は、他人ごとながら多いに心配していたのである。

そんな彼女もなんとか東京での就職を決め、一件落着。と思いきや就職してからも、研修の内容が分からない、この仕事に向いていない、役に立っているとは思えない、日本人はなんであんなに毎日飲みに行くのか、などなど次々と我がヨメに相談をもちかけ、ヨメさんは今にも辞めそうな彼女を鼓舞し、応援し続けたのである。

ところがそんな彼女、オーストラリアで働いているというスリランカ人男性と偶然東京で知り合い、電撃結婚することとなった。これで会社も辞められる、あと2ヶ月で支給される冬のボーナスをもらってオーストラリアへ! と意気込んで会社に結婚を報告すると、「ただちに独身寮から出て行きなさい」と言われてしまった。あと2ヶ月しか日本にいるつもりはない、いまさらアパートを借りるのも大変、行くところもない、頼れる人といえば・・・。
というわけで、私とヨメさんの住むアパートにアローシャが転がり込んできたわけである。でっかいスーツケースたちとともに。

それ以来、3人の不思議な共同生活が始まった。アローシャは毎日、Skypeを使ってオーストラリアやスリランカに電話している。パソコンをTV電話として使うため、スピーカーからは常に英語かシンハラ語が聞こえてくる。私も何度か旦那さんのダミンダさんと話をした。英語のわからない我がヨメさんは我々のTV会話を聞いて、「ここは外国のゲストハウスか!」と突っ込みを入れていたが、時々拾える単語を聞き分けては「イェース!」などと会話に参加していた。そして夜になると3人でセイロンティーを飲みながら、深夜にも関わらず大声で談笑するという毎日を過ごした。朝、私は辛うじていつも通りの時間に起きていたが、女性陣はしょっちゅう寝坊し会社に遅刻していたようである。

そんな2ヶ月もあっという間に過ぎ、無事にボーナスをもらったアローシャは会社を辞め、結婚式を挙げるためスリランカに帰国した。
「サイクロンが襲った後」のように荷物が散乱して足の踏み場もなくなっていたアローシャの部屋も、今は主のいないガランとした部屋に戻っていた。

それから3週間、今度は我々がスリランカに降り立つ日が来たのである。
アローシャが明日結婚式を挙げる・・・。ほんの数ヶ月前には想像もしていなかった展開だが、私たちは今、スリランカにいるのである。
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