個人的に大好きなイラン映画No.1


さて今回は、まだまだ見た本数としては少ないのだが、「個人的に大好きなイラン映画」No.1を発表してみよう。

すべての映画ファンはイラン映画にたどりつく・・・、というわけではないが、各国の映画を大量に見てきた人や、世界の映画際の審査員からは絶賛を浴びている作品も多いのがイラン映画である。

さぁ、それでは今回もランキング形式でいってみよう!

まず第4位! 「サイクリスト」

全イラン人が見たと言われるほど大ヒットした映画である。モフセン・マフマルバフ監督作品。

パキスタンから流れ着いた貧乏な家族のお父さんが、重い病気を患っている妻の入院費を稼ぐため、あまりにも無謀で、しかしあまりにも地味な賭けに挑む。その賭けとは、「一週間自転車に乗り続ける」というもの。成功すれば、興行師からたんまりとお金がもらえる。もちろん、その前には仕事を探したりもしたし、あげくには自殺を試みたりもしたのだが、どれもうまくいかなかった。子供も2人抱えており、どうにもこうにも生きていけない状況が彼を追い込んだのである。

これは、イランの現状をも物語っている。つまりイランの東にあるパキスタンからは、実際にこのようなパキスタン人が流れ込んできており、その大半は貧乏極まりない生活をしているという。

この現実の厳しさと、一週間自転車に乗り続けるというありえない組み合わせが、この映画をさらに面白くしている。笑いながら泣き、泣きながら笑ってしまう作品である。ぜひご覧あれ。

続いて、第3位!「運動靴と赤い金魚」

これはご存知の方も多いだろう。あのロベルト・ベニーニの「ビューティフル・ライフ」と全米アカデミー外国語映画賞を争った映画である。マジッド・マジディ監督作品。

主演は小学生の兄妹。妹の靴をなくしてしまったお兄ちゃんは、厳しい父親にそのことを言い出せず、自分の靴を妹と代わりばんこに履くことにした。妹は午前に学校に行き、お兄ちゃんは午後に学校に行く(実際にイランの地方によっては、学年によって午前か午後だけに学校に行くようである)。自分の靴を妹に貸しているお兄ちゃんは、妹が帰ってくるまで靴がない。帰ってくると同時に妹に靴を返してもらい、急いで学校に行く。しかしどうしても遅刻してしまい、先生に大目玉をくらってしまう泣き虫のお兄ちゃん。

そんな折、地域の小学生対抗のマラソン大会が開催されることになった。なんと3位の賞品はスニーカー! もうすでに学内の選考は終了していたものの、どうしても出たいと先生に頼みこむお兄ちゃんだった・・・。

子供の気持ちにスポットを当てた、非常に心温まる作品である。これも「サイクリスト」と同様、笑いながら泣き、泣きながら笑ってしまうという稀有な作品である。これは手に入りやすいので誰でも見られる作品だ。

そして、第2位! 「クローズアップ」

イランではあまりにも有名なアッバス・キアロスタミ監督の作品である。数々の映画賞を受賞している彼自身が、「これは自分でも特に好きな作品だ」と公言してはばからない映画だ。

主人公は、「モフセン・マフマルバフ監督」であると嘘をつき、ある女の人とその家族を「映画に出してあげるから」と騙してご飯を食べさせてもらったという、なんとも小さな罪で捕まった男である。

実は、これは演技でも脚本でもなく、本当にその罪を犯してしまった一般人が主人公なのである。要するにノンフィクションであり、冒頭はこの男の裁判のシーンから始まる。ところがこの映画のおもしろいところは、なんとこの男と、実際にだまされた本人たちを使って、再現VTRを製作しているのである。その出来上がった再現Vと、裁判のシーンを交互に映し出して物語を展開させていく。

この監督だから許されたのかは分からないが、スタッフが実際に裁判所に入って撮影しており、そこで監督自身も男に向かって質問したりしている。それを繰り返すことによって、男がなぜそんなことをしたのか、本当は何になりたいのかが明らかになっていくのである。まさに今までにない衝撃が走る、独特の映画だ。

さぁ、そして栄えある第1位はやっぱりこれ!
「パンと植木鉢」

こちらも設定や撮影方法は半ドキュメンタリー、役者も素人ばかりだが、「クローズアップ」とはまた手法が違う映画である。役者自身とその役が融合してしまう、といえばいいだろうか。

ストーリーは、このマフマルバフ監督の実体験から着想を得ている。実はこの監督、10代の頃にはイランの独裁体制に反対するレジスタンスグループ(地下組織)のリーダーであり、革命を自らの手で起こそうと考えていた抵抗の志士だった。革命を起こすためにはカネが要る、手っ取り早く手に入れるには銀行を襲えばいいと考え、そのための拳銃を警官から奪おうとしたのである。ところがあえなく失敗し、投獄。結局、彼の手にはよらずにイランの独裁体制は崩壊してしまうのだが、このとき襲われたという警官が、マフマルバフ監督のもとを訪ねるというシーンからこの映画は始まるのである。(ちなみにこの警官役は本物ではなく、この映画を撮るためにオーディションで選ばれた素人のおっさんである。つまり着想は事実に基づいているのだが、ここから先はフィクションとなる。)

そしてマフマルバフはこの警官が来たことをきっかけに、自分の起こしたあの「警官から拳銃を奪おうとする事件」の再現映画を撮ることに決める。あの事件のとき、警官もマフマルバフも10代だった。それを演じる少年をオーディションで選び(このくだりも非常におもしろい)、警官は警官で、マフマルバフはマフマルバフで、それぞれあの時代の情勢、自分の気持ちなどを少年に教え込み、いざ、脚本なしであのシーンを一発撮りしようとするのである。現場で待っている警官役の少年、そこにやってくる監督役の少年・・・。さて、再現シーンは一体どう転ぶのか?!

とにかく説明はこのぐらいにして、後はぜひとも見て頂きたい。独特の空気感とおもしろさ、そして衝撃のラスト、この映画の素晴らしさは見た人にしか分からない。いろんな映画を見てきたつもりだが、その中でも1、2を争うほどの大好きな映画である。時間も79分と短い。とにかくオススメだ。

そんなこんなでイラン映画を紹介してきた。ほんの一部を見ただけでもこんなに素晴らしい作品が目白押しなのだから、まだまだイラン映画には大量の感動作、衝撃作があるに違いない。日本ではなかなか手に入らないようだが、これからもちょいちょい気にしておきたい。

ではまた次回。
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