上間綾乃のアルバム『タミノウタ』の中の唄 No.1


このウェブサイトの中で何度も触れている沖縄民謡唄者の上間綾乃だが、2017年6月21日に彼女の5枚目のアルバムがリリースされた。これが個人的にはすこぶる良いので、全16曲のうち自分が良いと思う唄を勝手にランク付けしてみることにした。

このアルバムは、今までの彼女のアルバムからの抜粋と、新たに録音したものとを含めて16曲が収録されている。そして、なんとそのうち14曲がウチナーグチ(沖縄の言葉)で作詞されており、メジャーのアルバムでこれほどまでにウチナーグチの唄を入れてしまうかという、ある意味とっても痛快なアルバムとなっている(ちなみに沖縄民謡はすべてがウチナーグチで作詞されているわけではなく、標準語の唄もある)。

沖縄民謡唄者とはいえ、これまでに出してきたアルバムは、沖縄民謡をアレンジした曲が含まれてはいたものの自身や他のミュージシャンが作詞作曲したポップスのアルバムと言っていいものだった。しかし今回のアルバムは「全曲沖縄民謡」がコンセプトとなっている。彼女としては、今回は沖縄民謡だけでアルバムを作りたかったとのこと。民謡、つまり「たみ」の「うた」というところからこのアルバム名は来ている。

沖縄民謡は決して古いものではなく今も生まれ続けており、そういった意味からも「民の唄」という表現がとてもしっくりと来る。

ただし、民謡オンリーだからといって、このアルバムはただ沖縄民謡を集めただけのものではない。民謡集でもなく、カバー曲集でもなく、ワールドミュージック集でもなく、イージーリスニングなポップスアレンジ集でもなく、彼女のベスト曲集でもない。

彼女のルーツや思い、生き方、唄や人生に対する考え方までもが見事に反映された、まさに彼女にしかできないユニークなアルバムとなっているのである。と同時に、そんなことまで考えなくても何度も聴き続けられる。

というわけで、ようやくランキングにまいりましょう。
アルバム『タミノウタ』の中の唄No.1、まず第5位からいってみよう。

第5位はこれ!
「サーサー節」

これは自分が個人的に大好きな沖縄民謡であり、月の夜の毛遊びを歌ったものである。毛遊び(もうあしび)とは、夕刻から深夜にかけて、男女の若者が三線片手に唄い踊って遊んでいたという、かつて沖縄で広く行われていた慣習のこと。本当に月が見えてくるかのような優雅さと、楽しさの中にも何か切なさがあるような哀感が素晴らしい。

上間綾乃のライブに行ったりCDを買うと、必ずアンケートで「上間綾乃に今後歌ってほしい曲は?」と聞かれるのだが、自分がいつもそれに入れていたのがこの唄である。願いが叶ったという意味も込めて5位にランクインさせた。

さぁそして、第4位!
「月の美しゃ」&「デンサー節」

彼女は沖縄本島出身だが、この2曲はあえての八重山民謡である。

沖縄本島も八重山諸島(石垣島とその周辺)も沖縄県だが、方言が全く異なっているため、本島の人が八重山民謡を歌うには歌詞の内容も言葉の発音も新たに勉強する必要がある。あえてそこに挑戦し、しかもなるべく八重山の発音に近い状態で歌っている。八重山の人が聴いたらちょっと発音が違うというかもしれない、だからといって歌わずにいたらいつまでも歌えない、そんな彼女のある意味男前?な精神性がよく出ている選曲のため、4位にランクインさせた。

そして、第3位!
「ひめゆりの唄」&「PW無情」

またもや2曲同時のランクインとしてしまったが、この2曲はどちらも戦争の唄である。間違いないのは、このアルバムはこの2曲を中心に作っている、ということである。発売日も6月23日(慰霊の日)に一番近い水曜日であり、本来なら1位にするべき2曲であるが、あえての3位にした。

「ひめゆりの唄」は、あの有名なひめゆり学徒隊を歌ったものであり、辛く悲しい物語となっている。そして「PW無情」は戦争捕虜に関する唄であり、あえて少しポップなアレンジとしてあることで、郷愁を帯びたような曲になっている。

重めの唄となってしまうこの2曲はイベントなどではなかなか歌えないため、アルバムに入ったことでしっかりずっしり聴くことができる。

実は、THE BOOMの宮沢和史が沖縄民謡を収集する活動をしており、今の民謡唄者の人たちに、今後残したい、これからも歌い継いでいきたい曲を選んで歌ってもらい、その音源を収集してCD化したのだが、上間綾乃もそれに参加し、今後も歌い継いでいきたい唄として「ひめゆりの唄」を歌っている。彼女自身が「この唄を歌わなければ」という使命感のようなものを抱いているのである。

そして「PW無情」は、これも先ほどの「サーサー節」と同様、自分がアンケートで「上間綾乃に歌ってほしい」として毎回書いていたものであり、こちらも願いが叶ったという感じである。これほど特異な唄があるのか、と思う。PW(Prisoner of War)、つまり戦争捕虜の唄。そんな内容の曲が歌い継がれているということに衝撃を受ける。メジャーのCDではあまり歓迎されない選曲かもしれないが、あえて今回はそんな唄を中心に据えているところが素晴らしい。

さぁそして、そんなアルバムの中心となった唄を超えて、第2位に輝くのはこれ!
「夢しじく」

前回、「上間綾乃の座って聴きたい唄」で見事1位にランクインしたこの曲だが(自分で勝手にランクインさせただけだが)、今回、新たに録音しなおして収録。このアルバム唯一の上間綾乃本人の作詞作曲となっている。

なぜこれが先ほどの2曲を抜いて2位か?

それは、このアルバムは全曲沖縄民謡というコンセプトで作られていることがポイントとなる。つまり上間綾乃は、このアルバムに自身の作詞作曲による唄を加えたことで、この唄を沖縄民謡として今後も歌い継いでいきたい、これは「民」の唄である、と宣言したわけである!

諸先輩が作ったり歌い継いできた唄だけをただ歌い継いでいくだけではなく、自身が生み出した唄も「民の唄」となっていく。沖縄の中で育ち、沖縄の歴史を体現し、その流れの中でバトンを受け渡していくだけでなく、今という要素を加え、上間綾乃という色を沖縄民謡に加えたということ、そこに大きな魅力を感じるからである!

さらに、この唄が沖縄民謡にまた1つの色を加えると同時に、このアルバムは日本の音楽業界に一石を投じると言ってもいいのではないかと思っている!

つまり、どの唄も標準語で歌う必要はないのである。この多様性と包括性の時代に、各地方の方言で歌う唄があちこちからリリースされてもいいのではないか、と思う。

ウチナーグチでは意味が分からないという人もいるが、じゃあ日本人が洋楽の歌詞の意味をすべて理解しているのだろうか? 完璧には理解できなくても、好きな曲、楽しい曲、人生に影響を与えてくれる曲はいくらでもある。そして、具体的に意味を調べてみて、より深く理解することで2度楽しめる、という考え方もできる。

結果、このアルバムは、沖縄民謡唄者でメジャーデビューしている彼女が、東京でも音楽活動を積み、いろんな音楽に埋もれ、場合によっては広い音楽の海に溺れ、ふとルーツである沖縄を見たときにそれらがうまく混ざり合い、実現したアルバムなのではないかと思う。

しかも、意図的に何かと何かをミックスさせようとか、沖縄民謡を新たにこねくり回そうとか、逆に何もアレンジしないようにしようとか、そういった固執や作為的な意図を感じることもなく、とても自然な流れで出てきたのではないかと思わせるほど無理がない(もちろん製作側としてはいろいろ考えているのだろうが)。

彼女が東京に出たときには自分の立ち位置について苦闘したかもしれないが、まさに今の上間綾乃を自然に表現しているアルバムとなっている。

ということから考えると、このアルバムのジャンルは沖縄民謡でもポップスでもなく、「上間綾乃」ということになるのかもしれない。

さて、1位を発表する前にちょっと語りすぎてしまったが、はい、では第1位を発表しましょう。

上間綾乃のアルバム『タミノウタ』の中の唄No.1、第1位はこれ!
「島唄 南の四季」&「恋ぬ花」

また2曲選んでしまいました。この2曲は恋の唄である。

実はわたくし、上間綾乃には恋の唄が少ない、と感じている。戦争の唄もすばらしい、自然や教訓を歌ったもの、友達や親を思う唄もすばらしい。しかし、ホレたハレたのあまりにも至近な細かい「あるある」話ではなく、南国の自然にからめて恋を詩的に歌った「島唄 南の四季」や、艶っぽくもあり哀感もただよう「恋ぬ花」は、自分的にこれからの上間綾乃に歌ってほしい唄なのである!

つまり、戦争の唄を中心として作った今回のアルバムに、また別の挑戦が込められていることを感じるのである!今まであまり得意とはしていないと思われる恋の唄、しかも今回のアルバムでは見落とされがちかもしれないこの2曲に、挑戦と進化を続ける上間綾乃の精神性と、表現者としての今後の可能性を感じるのである!

というわけで、今回のアルバムの中心となる2曲を1位とするのは当たり前、そうではなくあえてこの2曲をNo.1とさせていただいた。

長々と書きましたが、結論としては、ま、そんなことなど気にせず聴いてください、個人的にはとても良いアルバムだと思うんですよねぇ、ええ、ということです、はい。。

以上、上間綾乃のアルバム『タミノウタ』の中の唄No.1でした。
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