とっても心に響いた名言No.1


今回は、最近見聞きした有名人の言葉の中で、自分の心に響いたすばらしい「名言」について取り上げてみたい。

言葉というのは非常に大事である。「言霊」という言い方もあるが、言葉をおろそかに使うことはできないと最近常々感じている。
また英語では、人間や社会、世界の真髄や機微を簡潔で印象的な言葉でまとめたものを「aphorism」(アフォリズム)と呼んでいて、1つの文学、あるいは芸術のようなジャンルとして捉えている。
1つの言葉が人を救ったり、生き方を変えてしまうことも少なくない。
今日はそこまでの金言・格言ではないにしても、自分が個人的に気に入った言葉について、またもやランキング形式で書いてみたいと思う。

それでは、「個人的にとっても心に響いた名言」No.1、いってみよう!

まず第3位!
「今日最後のステージだから、うんと力抜いていきましょうね」

最後の「いきましょうね」の「ね」は沖縄弁であり、これは他の人に「〜しましょう」と言っているのではなく、「私がこうやりますよ」と言っている意味となる。つまり、「私、力抜いてやりますから」という意味になる。
はい、沖縄弁と言いました、これは沖縄民謡唄者の上間綾乃が、彼女のライブ中に発した言葉である。

自分は沖縄民謡が好きである。そのことについてもいつか書きたいと思うが、沖縄にはもう10回以上も訪れていて、那覇に行ったときはよく民謡ライブを見に行ったりしている。

現在26才の彼女は最近、バイオリニストの宮本笑里や、インストゥルメンタルユニットの古武道とのコラボCDに参加し、全国的にも顔を知られる存在となったが、2011年6月までは那覇にある居酒屋兼ライブハウスで、ほぼ週1回のペースでライブを行なっていた。そこでは夕方から約1時間ずつのステージを、間に休憩をはさんで3回行うのだが、自分が見に行ったときの3回目のステージの前に、彼女が発した言葉がこれである。

「うんと力抜いていきましょうね」

「今日最後の」と来れば、その後はだいたい「さらに気合入れて」とか「すべてを出し切って」といった言葉が続きそうだが、それを裏切っただけでなく、彼女はいとも簡単にこの言葉を有言実行してしまうのである。
この日の3回目のステージは、それまでよりもさらにゆったりと、より深く心に響くステージとなった。

沖縄の人は概してゆったりとした性格である。「テーゲー」(大概)という言葉がよく使われているとおり、時間にもこだわりが薄く、きっちりというよりは何事においてもノンビリとやっている。そういう環境がこの言葉を生んだだけで、彼女的には大した意味はなかったのかな、などと考えていたのだが、のちに、彼女がパーソナリティを務めるラジオを聞いていたとき、彼女がこの発言について触れたのである。
「力を入れるほうが簡単でしょ? 抜くほうが難しいさ」
沖縄弁で話す彼女のこの発言を聞いたとき、若いのにこれはタダモノじゃない、やはり人の前に立って何かを伝えられる人なのだ、と思ったのである。

みなさんはどうですか? ここぞというときに力ばっかり入って空回りしていませんか?
そんなときは唱えてみてくださいな。「うんと力抜いていきましょう」


それでは次の言葉にまいりましょう。第2位!
「完璧な人間などいない」

よくある言い回しかもしれないが、果たして、自分の偉業をぶち壊してしまった相手にこの言葉が言えるだろうか?
これはメジャーリーグ、デトロイト・タイガースのアーマンド・ガララーガ投手が発した言葉である。
どういう状況で発した言葉か? これを説明すると、あぁあれか!と思い出す方もいるだろう。

2010年6月3日、彼は対クリーブランド・インティアンス戦で先発登板し、なんと9回ツーアウトまでパーフェクトピッチングを続けていた。
パーフェクト、つまりヒットやホームランだけでなく、ファーボールやデッドボール、野手のエラーもないという完全試合である。
あと1人でこの偉業を達成するというところまできていたのである。
そして、最後のバッターがファーストゴロを打った! 一塁手がゴロを取ろうとベースから離れる。
ガララーガ投手がファーストのベースカバーに入る。一塁手からボールを受け取ってベースを踏むガララーガ!
誰もが完全試合を確信して歓声をあげようとした瞬間、一塁塁審が大きなジェスチャーでコールしたのは、
「セーフ」!
完全にアウトのように見えたタイガース側は猛抗議。しかし判定は覆らなかった。
結局、彼の偉業達成はならなかった。

ところがこの試合のあと、最後のシーンをビデオで見てみたところ、やはりガララーガ投手の足のほうがベースにつくのが早い。
アウトだったのである。審判の誤審だったことが判明したのである!
これを見た当の審判は、潔く謝罪した。判定は覆らないが、あれは誤審だったと。
その発言を受けて、ガララーガ投手がその審判に対して発したのがこの言葉である。

「完璧な人間などいない」(Nobody is perfect.)

この状況でこんな言葉を発することができるだろうか?! 
メジャーリーグの長い長い歴史の中で、まだ20人しか達成したことのない「完全試合」という大偉業を、審判の誤審によって台無しにされた直後である。

よっぽどできた人間なんじゃないか、あるいはもうベテランで、もともと悟りを開いたような人だったんじゃないの、と思うかもしれない。
彼はこのときまだ28才、パーフェックトもノーヒットノーランも達成したことはない。

自分がこの発言をさらに気に入ったのは、次のような事実があったからである。
実は彼、試合後にこのシーンをビデオで見た直後にはこのような発言をしているのだ。

「悲しいよ。20回はリプレイを見たが、どう見てもセーフとは思えなかった。 俺からパーフェクトゲームを奪った審判と話がしたい。塁審はもっといい位置でジャッジすべきだった」

つまり悔しくてやるせなくて、「俺からパーフェクトゲームを奪った審判」とまで発言しているのである。
彼だって人間だ、もちろん文句だってある。しかし、審判のほうだって誤審と認めるにはものすごい勇気がいるものだ。
彼はそれを理解しているのである。審判が謝罪したことで、いろんな思いを飲み込んで、精一杯ひねり出した発言が「Nobody is perfect.」だったに違いないのである。

あるいは…、これは深読みかもしれないが、パーフェクトを逃した自分に向けた言葉だったのかもしれない。
パーフェクトな人間なんていない、つまり完全試合を達成したからと言ってそれでパーフェクトなプレイヤー、あるいはパーフェクトな人間であることの証明ではない、と。
もしそうなら、さらに深く心にしみいる言葉に思えてくる。
まさに記録よりも記憶に残るとはこのことである。


さぁ、それでは第1位を発表する前に、ランキングには入らなかったがあまりにもすばらしい名言(迷言?)をご紹介しよう。
迷言といえばやはりこの人、長嶋茂雄の言葉である。

「失敗は成功のマザー」

すばらしい。すばらしすぎる。なぜならこの字面自体が、この言葉の意味をすでに体現しているからである。
つまり、言葉として滑稽で間違っており「失敗」しているが、この失敗によってとっても心に残る「名言」となっているからである。
この言葉を聞くと思わず吹き出してしまうが、それと同時に「失敗しても大丈夫」と思わせてくれる力強いメッセージとなっている。
すばらしい。長嶋茂雄はすばらしい。


というわけで少し話がそれたが、それでは「個人的にとっても心に響いた名言」第1位を発表しよう。
第1位はこれだ!

「本当はこんなものいらないのよ。でも一生大事にするわ」

これは2011年6月23日、レディー・ガガが来日したときに発した言葉である。
いらないのに、一生大事にする。この矛盾した言葉もまた美しい。

レディー・ガガは日本好きで有名で、あの3・11の地震のすぐあと、自らリストバンドをデザインし、その販売の収益を義援金として送ってくれている。その金額は2億円とも言われている。
そして、その3か月後、MTVのライブイベントに出演するため日本を訪れた。
それまでの間、数々の海外アーティストは訪日をとりやめた。余震と放射能が怖いからである。
しかし彼女はそんなことなど気にもかけず、日本を愛しているから行く、私は大丈夫と言い続けていたのである。

この2つの事実が大きく評価され、当時の菅首相が日本政府としてレディー・ガガに感謝状を授与した。
それを受け取ったときに彼女が発した言葉がこれである。

「本当はこんなものいらないのよ。私の日本に対する愛は無償のものだから。でも、一生大事にするわ」
(I hope you all know all over Japan that I need no letter or present or gift from anyone. 
My devotion to the people of Japan comes from a selfless place.
I love this country so much and I will cherish this letter forever in my heart.)

すばらしい。彼女のキャラクターも壊さず、なおかつ被災地の人々の心にも届く、素敵すぎる言葉である。


言葉でその人のことが分かる。どういう発言をするかでその人が決まる。懐の深さや浅さ、日頃の心がけが簡単に透けて見える。
人の心を打とうとする必要はないが、常日頃からどのような姿勢で生きていくべきなのか、考える機会を与えてくれる言葉群である。

以上、「個人的にとっても心に響いた名言」No.1でした。
プリンタ出力用画面
友達に伝える

前のページ
個人的に大好きなイラン映画No.1
コンテンツのトップ 次のページ
チャップリンの名作中の名作No.1