上間綾乃の座って聴きたい唄 No.1


このサイトですでに何度か触れているが、今回は沖縄民謡唄者、上間綾乃について書いてみようと思う。

小学2年から唄三線を習い始めた彼女は、若干19才にして琉球國民謡協会の教師免許を取得。そして20才のときに初のCDアルバム「願い星」を発表する(2006年2月)。以来、沖縄民謡だけでなくオリジナル曲も多数発表し、沖縄や全国でのライブ活動を精力的に行いながら、2012年、アルバム「唄者」でメジャーデビュー。その後もFUJI ROCK FESTIVALにも出演するなど活躍が続いている。

そんな彼女に自分が出会ったのは、一人で沖縄を訪れ、国際通りにある民謡居酒屋「かなぐすく」に行ったときだった。実はその数年前から彼女がそこで頻繁にライブをやっているのを知ってはいたのだが、なかなかタイミングが合わず、やっと2011年に見に行くことができたのである。

薄暗い階段を下りて地下に入っていくと、すでに何人かのお客さんが食事をしていたり泡盛を飲んでいたりした。前には小さなステージがある。予約をしていた自分は、一番端ではあるものの一番前の席へと案内された。

泡盛を飲み、アグー豚なんかをつまんでいると、ステージ横から三線を持った上間綾乃と、サポートギターの伊集タツヤが出てきた。この伊集タツヤさんという方は太陽風オーケストラというグループのギタリストで、彼女のインディーズ時代の2枚のアルバムのサウンドプロデューサーでもある。

彼女が出てきた瞬間の衝撃は今でも忘れられない。地下の薄暗い空間が一瞬にして、華やかでキラキラとした空間に変貌したのである。特に照明が変わったわけではない。圧倒的な華とパワーを放っているのである。そして、心に沁みるような三線が弾き鳴らされ、沖縄民謡で鍛えられた歌声から、唄に込められた熱い気持ちが伝わってくる。唄の合間のトークでは、伊集さんとのやり取りから大爆笑が巻き起こされる。

一瞬で心を掴まれた。彼女の歌う沖縄民謡やオリジナル曲、立ち居振る舞い、トーク、どれもが自分の中にスッと入ってくる。とても楽しく、充実した時間だ。

1回40分ほどのステージを3回やるのだが、2回目を終えるとさすがに時間も遅くなるので帰る人が出てくる。自分はどんなに遅くなろうが今日は最後までいると決めたので(ホテルまで歩いて帰れるので)、3回目のステージを待ちながら飲んでいると、この店のマスターが近づいてきて「真ん中に座られますか?」と言う。真ん中に座っている人が帰ったので空いているのだが、他の人に同じように薦めているようでもない。自分が夢中になっているのがバレていたようである。

3回目のステージも堪能し、帰り際、レジに彼女のCDが置いてあったので早速購入すると、マスターが「本人にサインさせましょうか?」と言う。いえいえそんな、ライブ終わった直後ですし、いいですよそんな、などと言っているにも関わらずマスターはスタスタと楽屋のほうへと歩いくと、すぐに上間綾乃ご本人が出てきてくれた。ササっとサインを書いてくれるだけでなく、少し会話までさせてもらい握手までしてもらったのである。

この日以来、上間綾乃の過去のCDも買い集め(インディーズ時代のCDは廃盤になっておりオークションで買った)、彼女がライブやイベント出演で東京に来るときは必ず行くようになった。また、沖縄民謡もさらにたくさん聴くようになり、沖縄弁もいくつか覚えるようになってしまったのである。

前置きが長くなってしまったが、そんな上間綾乃のアルバムの中から、これはぜひとも座って聴きたいという曲を選んでみた。例によって、読む人の興味のあるなしに関わらず、自分の独断と偏見で勝手にランキングしてみたものを発表しよう。

それではまず、第3位!
『あいうた』

亡くなってしまった母親に対する感謝を歌った、涙なしでは聴けない唄である。これは、親子愛をテーマにした短編集『親と子の感動の物語 あいうた』という書籍に付いているDVDのメインテーマとして収録されたものである。せカンドアルバム『ニライカナイ』にもアレンジを変えて収録されているが、個人的には最初の『あいうた』のほうが沖縄っぽい感じがして好きだ。

伝統に根差し、故郷に根差し、家族を愛し、その愛や命を表現できる彼女が歌うことで、さらに深みが増している。彼女にピッタリの曲である。

さぁ続いていきましょう。第2位!
『新川大漁節』

曲名を聴いて分かるとおり、もともとは民謡である。しかし、ギターを入れたりラッパをのせたりと、ロック調のアレンジがあまりにも衝撃的で感動してしまうのである。本来は立ち上がりたくなるような曲だが、その衝動をグッとこらえて、体の中に渦巻く衝撃と情熱を感じながら、それでもじっと座ってなんとか爆発させずに耐えながら聴く、というのがたまらなくいい曲である。

先ほどの『あいうた』とはまったく違う趣の曲であり、上間綾乃のキャパシティの広さにも驚いてしまう1曲である。

ちなみに、上間綾乃はアルバムに何曲か(アレンジした)沖縄民謡を入れたり、ライブでも三線一本で沖縄民謡を歌ってくれたりする。年齢を重ねていくことで挑戦できる唄や、人生経験を積むことでより深みがますような唄もあるようで、彼女自身が考える「挑戦」に毎回チャレンジしているようである。個人的には、彼女の歌う『サーサー節』『遊び仲風(あしびなかふう)』『下千鳥(さぎちじゅやー)』が大好きである。

というわけで、それでは第1位を発表いたしましょう。
上間綾乃の座って聴きたい唄No.1はこれだ!
『夢しじく』

全編うちなーぐち(沖縄弁)の唄である。彼女は標準語の唄だけでなく、うちなーぐちの唄も多数作詞作曲し、発表しているところが素晴らしい。

『夢しじく』は、うちなーぐちで「いみしじく」と発音し、「夢しょっちゅう」というような意味になる。つまり「夢によく観る」ということだが、風に乗ってきた想いはどこにも辿り着くことはない、だから私だったりあなたが受け止めよう、という内容の唄である。

これは、沖縄という土地を見守る先祖たちの想いのようにも受け取れるし、沖縄に限定することなく広く日本(というか故郷)に伝わる想い、あるいは、遠くにいる恋人からの想いという受け取り方もできる。とにかく、この唄を聴いていると切ない気持ちや温かい感情など、いろんな想いが心の中で生まれてくるのである。

曲の前半は三線一本で、後半からはギターが入ってくるのみという、非常にシンプルでアコースティックな楽曲となっているところもとてもいい。ライブでも、特にアコースティックなこの曲はお客さんがシーンと集中して聴いてしまうのである。三線を究極のアコースティック楽器だと思っている自分としては、その音色を存分に堪能できるところがまたいいのである。

またこの唄は、自分が上間綾乃にサインしてもらったあのCDに収録されている唄でもあり、最初に彼女に会ったときのあの衝撃も思い出され、なんだか懐かしい気持ちにもなるのである。そんなこんなも含め、この唄を1位に認定したい。

メジャーデビュー後も沖縄在住で頑張っていた彼女は、ついに東京に出てきて活動している。いずれまた沖縄には帰るのだろうが、東京でいろんな音楽にまみれながら、その中で沖縄ポップスをアピールし、上間綾乃の音楽を追求し続けていくだろう。

今後も追いかけていくつもりである。

以上、上間綾乃の座って聴きたい唄No.1でした。
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