ガンジス


翌日、我々はガンジス河沿いのゲストハウスへ移ろうと、バックパックをかついでホテルを出た。
ガンジス河の近くへ行くと、細い道が縦横に入り乱れ迷路のようになっている。
うろうろしていると自分がどこにいるのか分からなくなる。

やっとの思いで見つけた宿は、少し奥まった怪しい所にあったのだが見晴らしが良く、部屋の窓を開けると眼下にガンジス河が見えるという、なんとも贅沢なゲストハウスであった。
ここが何度もテレビで見、本で読んだガンジス河か・・・。
ヒンズー教徒でもないのに、なぜか感激もひとしおである。
こんな河の近くに宿を取れるとは・・・。

河べりにいる人たちの賑わいが聞こえてくる。
歌にも似た祈りの声。
そしてなぜかインド音楽。
活気に満ち溢れている。

我々は連泊するということで宿代を少し安くしてもらい、バックパックを置いてベッドに横たわった。
ところが2人とも疲れていたのか、この日はそのまま眠りこけてしまった。

次の日、少し元気になった我々はなんと海パンに着替え、タオルをひっかけてガンジスへと降りていった。
沐浴するのである! ヒンズー教徒のようにガンジスに入ってやるのである!!

河べりへ降りてみると・・・。
む〜! お世辞にもきれいとは言えない!
日の出前から沐浴しようと集まった人たちでいっぱいなのだが、そこを少し離れると、ガンジスで洗濯している人がいる。
その横には牛がいて、女の人(飼い主?)がその糞を集め、平たくし、河べりにくっつけて乾かしている。
何かに使うのだろうが、何かは聞かなかった。

そしてその横で、ゴミや葉っぱなどをほうきで掃いている人がいる。
どうするのかと見ていたら、なんと集めたゴミをガンジスに掃き入れるではないか!
おいおい! 河を汚すための掃除か!
ふと見ると、遠くに何か流れている。
目を凝らして見ると・・・、どうやら豚のようである。
水を含んでふくれあがった、豚の死体である!

ん〜・・・、こんな河に入ってええんやろか・・・?
二人して河を眺めながら、身動き一つせず何十分もためらってしまった。

そんなにまでして入りたいの? と思うかもしれないが、ここまで来たのだから、どうしても入ってみたい。
汚れがましな所を選び、意を決して入ってみたのである。
まず河の中に足を踏み入れてみた。
すると・・・。

冷たい! と同時に、ものすごい感触が足の裏をおそった!
ムニュムニュである。
河に入った瞬間、地べたがムニュムニュになっているのである!
それが一体何なのかは一切追求せず、さらに前へと進むことにした。
この際、追求するなどという姿勢はかえって危険である。

なんとか腰まで浸かった後、思い切って頭のてっぺんまでドボンともぐってやった!
そしてちょっぴり泳いでみた!
もちろん目は開けない。
汚い! と思うかもしれないが、これが案外気持ち良かったのである。
まぁ沐浴というより、水の怖い子がムリヤリ入らされているようではあったが・・・。

同じようにKSも入ってみた。
お互い河から逃げるように這い上がり、なぜかしばらく河べりにたたずんでいた。
あ〜怖かった。でもやってやったな。やってやったなぁ。
ガンジス河に入ってやったなぁ。

なぜか妙に息が上がっている二人であった。

しかし周りをよく見ていると、やはり旅行者で好き好んでガンジスに入る者はいないようだ。
みんな河べりから、「・・よくやるねぇ・・」と通り過ぎていく。
そんな西洋人の1人に向かって、我々向こう見ず日本人は、
「君も入ってみたら? Why don’t you join us?!」
と誘いをかけるのだった。
西洋人にとって、我々は悪魔に見えたに違いない。

ゲストハウスに戻ると、アメリカ人がしきりにフロントのインド人に聞いていた。
ガンジスとはインド人にとって何なのか?
河に入るのはなぜか?
そして我らに、「日本人は同じ東洋人だから分かるの?」と聞いてくる。

まぁ分かるような、分からんような・・・。

そんな事より、君も一度入ってみたら!? と、ここでも恐れを知らない我々は誘いをかけてみた。
するとそのアメリカ人、「ひょっとして君たちは・・・?」
「Yes, 我々はダイブしたよ。」
「Oh,my god!!」
驚きを包み隠さず表現するアメリカ人であった。

その後、そのフロントのインド人と大いにしゃべった。
彼が言うには、インド人でも遠くて貧しい人はここまで来れない、それなのにあなた方は日本のような遠くに住んでいるのにガンジスで沐浴できるなんてとてもラッキーだ、と。
ほ、ほう、な、なるほど。

テレビで見たことがある。
この近くには「死を待つ人の家」というのがあって、病気や衰弱でもう死を覚悟した者が、わざわざ家族でやって来てそこで死を待つという。
そして河べりの火葬場で焼いてもらい、遺灰をガンジスへ流す。
それでお別れである。後には何も残らない。
インドにはお墓がない。
そしてここでは火葬場がムキ出しであり、布にくるまれた人が実際に焼かれるのを見ることができる。
その近くで子供が遊んでいたりする。
ここは生も死も一体なのである。

いや、むしろ生と死は元から一体のはずである。
それを思い起こさせてくれる、と言った方がいいのか。

この日も、しばらく人が焼かれるのを見ていた。
においは特別何もしない。ただ物が焼け焦げるにおいだけである。

そうやって見ていると小さな女の子が寄ってきて、「ワンルピー」と手を差し出される。
お金を恵んでくれと。
しかもやたら人なつっこい、かわいらしい満面の笑顔で。
金を恵んでもらうということになんのためらいもない。
あまりにもかわいいので恵んであげようかと思ったが、それを見て他の子供がたくさん群がってきては大変なので、あげることはしなかった。

しかしインドの子供はあんなにも可愛い顔をしているのに、あの大人たちのふてぶてしさは一体なんだろうか・・・?

さて、また次の日、これまた朝っぱらからガンジスで沐浴していると、そばで同じく沐浴していたインド人に声をかけられた。
インド占星術に興味があるのだが、などとこちらが話すと、そのおっさん、「じゃあおいらのグルに会うかい?」と誘ってくれた。
相変わらず警戒心を強めるKS(というかこれが必要にして重要なのだが)と共に、そのグルに会いに行くのであるが・・・。

それはまた次回に書くとしよう。

というわけで、バラナシ編Part3へと続く・・・。
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