演奏会は志村けん?


その後、夕方になってこれまたガンジス河付近でうろうろしていると、何かのチラシを配っている子供に出くわした。
もらって見ると、この近くでインド音楽の演奏会があるという。

それまでにも、レストランやなんかで聞かせてくれる所があって、サーランギー(モンゴルで言うところの馬頭琴、中国で言うところの二胡。バイオリンようなものだが、座って地面に置いて弓で弾く)やタブラ(太鼓)などは聞いたことがあったのだが、あのギターを大きくしたようなインド独特の楽器・シタールなどは全く聞いていなかった。
よし、行ってみるべ! と、その子供に案内されるままに、細い道を奥へ奥へと進んでいったのである。

誰かの自宅だろうか、少し大きめの家の2階へと案内された。
その入り口の所に恰幅のいいおっさんがいて、「ようこそ」と迎えてくれる。
すると案内役の子供たちが、一斉におっさんに何か言うのである。
どうやら「僕が連れてきた!」「いや俺だ!」と言っているようである。

おっさん、「誰について来たのだ?」と我々に聞く。
「この子」と指差すと、一斉に子供たちの声がやんだ。
おそらく客を連れてきた子に、いくらかのマージンが入るのだろう。
そうやって子供のうちから小銭をかせいで生きていくのである。

料金を払い、部屋に入ってみると、大きさは8畳ぐらいだろうか、そこに日本人を含む旅行者らしき者が7,8人。
いずれもバックパッカーだろう、リッチな旅行者らしき者はおらず、インド服を着た者、鼻ピアスをした者など、いずれもレジャーというより何かを得ようとして来ているような感じである。

そうこうするうちに演者が入ってきた。
ところがこの二人のおっさん、何やら口をモゴモゴさせて出てくるのである。
何かを食べていたのだろう、そのままお構いなしの登場である。
そして、それぞれハルモニウム(箱型のオルガンのような楽器)とタブラの前に座り、汚らしい咳払いをゴホン、クヮ〜、ゴホン、クヮ〜などと繰り返し、こちらの気分を害したところで適当に音を鳴らし始めた。

まるで、加藤茶と志村けんがコントを始めるかのような雰囲気である。

するとハルモニウムを鳴らしていたおっさんが、突然歌い始めた。
いつの間にか曲が始まっていたようである。
準備、チューニング、そして曲と、どこでどう変わったのか分からないまま始まったのである。
あいさつもなし。

・・・のらりくらりと眠くなるような歌が続く。
しかし周りを見ると、音楽に合わせて微妙に体を揺すっている者がいる。
目をつぶり、別の何かを感じ取ろうとしているような者もいる。

我々はと言えば、襲ってくる眠気にひたすら耐えるのみだった。
ところが時々、歌が妙に盛り上がる部分があって、そこになるとハルモニウムのおっさんが、突然大声になるのである!
我々の目が覚める。

またのらりくらり・・・。

また大きくなる!

目が覚める!!

のらりくらり・・・。

それを何回も繰り返しているうちに、その盛り上がる部分がさらに極端になり、そこに来る度に、おっさんが高く高く伸び上がるようになるのである!
しまいには立ち上がらんばかりに!
そしてバランスを崩し、ハルモニウムに突っ伏しそうになったりしている。

こちらにはギャグにしか見えないが、歌ってるおっさんはとっても気持ち良さそうである。
聞いてる者も、我々以外笑おうとする者はいない。

「これ、絶対コントや。あの二人、加藤茶と志村けんやろ。」と思えるほど滑稽な状況なのだが、皆さん真剣に聞き入っているので笑いを噛み殺していた。
あのおっさんの中には、絶対志村けんが入っていたに違いない。
歌い方、動き、どれをとってもシムケンそのものであった。

そして1曲目が終わり、2曲目、3曲目と続く。
その度に演者と楽器が変わっていく。
インドの色んな楽器と音楽が聞けるのである。

案外良かった。
自分は全くの素人ではあるが、レストランなんかで聞いていた音楽とはレベルが違うのが分かった。
かなりいいものを聞かせてくれているようである。

しかし、やはりその中でも一番良かったのは、最後に登場したシタールである。
間近で見ると、ギターとは比較にならないほどデカイ。
とくにネックの部分が極端に長い。
これを弾きこなすのは、かなり大変そうである。
そして、弦も20本あるらしい(ほとんどの弦は押さえず、かき鳴らすだけらしいが)。

曲が始まった。
同じ旋律の繰り返しのようだが、シタールに関しては全く飽きなかった。
速いテンポ、弾き方のダイナミックさ、音、どれをとってもおもしろく、最後まで楽しく聞けた。

弾いているのはただの無愛想なおっさんだったが・・・。

こうしてバラナシの日々も過ぎていった。

明日は長距離バスに乗って国境を越え、ネパールへと入る予定だ。
というわけで、次からはインド旅行記番外・ネパールに入ります!

お楽しみに。
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